清和の流れを汲む者(四)
場の空気が変わったところで、私はふたたび口を開いた。
「頼みというのは、源のお祖父様のことだ」
「大殿の……?」
親衡殿は面くらった顔をした。脈絡のない話ゆえ無理もなかろう。だが私の目を見て表情を改めた。
私は話を進める。
「実は、先だって妙な夢を見てな」
「夢……でございますか」
「うむ。あまりに縁起が悪い内容だったゆえ、口にするのを憚られていたのだが……」
取り越し苦労であればよい。だが、この胸騒ぎがどうしても、あの教養書とつながるのだ。
「先ほど父上が『いずれ大きな戦となる』と仰っていた。避けられぬ戦であっても、家族には無事でいて欲しいのだ」
「若様……」
「私の考えが甘いことは、わかっている。『武士として生まれたからには、潔く散るも誉れ』その教えを忘れたことはない」
私は腿に置いていた拳を握りしめた。
「だがそれも、誉れとなる散り方によろう」
私の言葉に、親衡殿は息を飲み顔色を変えた。小助も青ざめている。
「もしや……若様が見られた夢というのは……」
親衡殿も、それ以上を口にするのは憚られるようだ。私は同意するように頷いた。
「ゆえに、源のお祖父様のご様子が気に掛かるのだ。どうか頼まれてはくれぬか」
「すぐに、殿にご報告いたします」
親衡殿は、影の長としての顔で真剣に頷いた。小助も頭を下げている。事の重要性が伝わったようだ。私は少しだけ安堵した。
「じきに夜も更けます。若様はお休みください」
「善処は致そう」
私の返答に、親衡殿は苦笑した。
「お気持ちはわかりますが、御帳台にお入りください」
「相わかった。今宵はご苦労であった」
正直に言ってしまえば目が冴えているのだが、無為に逆らうこともあるまい。私は御帳台に入り、衾を掛けた。
「これよりの夜更かしはなさいますな」
親衡殿はやさしく言い置き、灯明皿の灯りを消して、小助とともに退出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます