二章 保元元年(一一五六)七月

平穏への楔

 保元元年(一一五六)六月下旬。

 常盤の義母上の、産後の容態が安定してきた頃。私は北対にて、二歳となった乙若丸が、よちよちと歩くのを愛でていた。

 この世界では、生まれた直後に一歳と数え、新年を迎えるごとに、ひとつ歳を重ねていく。したがって、昨年の九月半ばに生まれた乙若丸は二歳となる。生後で表すと、もうすぐ十ヶ月だ。

 ややこしいのか、わかりやすいのか……この世界に十年いる私も、いまだにわからぬ。


 熱田のお祖父様を天へと送ってから半年余り。取るに足らぬことを考えられる程度には、穏やかな日々を過ごしていたはずだった。

 楔が打たれたのは、その時。

 近江から、父上の執務室へと向かうよう知らされたのだ。

 似た世界・・・・という言葉に、一縷いちるの望みを抱いていたのだが……どうやら『保元の乱』は他人事とならぬようだ。

 嫌な鼓動が、私の内を侵蝕していく──



 ***



 父上の命により執務室に集められたのは、母上、義平異母兄上、朝長異母兄上、そして私の四人だった。

 義母上方へは、それぞれの対屋にて、子である異母兄上方が伝えられるとのこと。線の細い常盤の義母上の耳に入れぬための策だという。

 側室でいらっしゃる義母上方は、お三方そろって呼べぬ時はどなたも呼ばぬ。それが我が家の決まり事だ。


「これより、われの話をよくよく聞いておけ」


 念を押された父上は、事のあらましをお話しくださった。


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