※ 熱田のお祖父様(五)

 それから、季範公に寄り添われる神使の方と向き合った。

 先ほどまで消え果てそうだった神使の方は、季範公のあり余る霊力により、少しずつ回復なさっているようだった。


『神使の方。あなた様のおかげで、私はさまようことがなくなりました。心より御礼申し上げます』

『いいのよ。あなたのためになったのなら、それで』


 藍色の夢で仰ってくださったのと同じ言葉。だが今は。神使の方の微笑みに、翳りは見受けられぬ。


『鬼武者』


 季範公は、私の頭をそっと撫でられた。魂魄であるのに、その手は温かかった。


『達者でな』


 そう言い置くと、神使の方を伴い天へと昇られた。一度も振り返ることのない、潔い姿だった。

 この室に横たわるお祖父様は、新たな命のために、すべてを使い果たされた。

 私は結局、神使の方に伺うことも、お祖父様に直接伺うこともできなかった。だがきっと。この時まで生き永らえていらしたのは、もうすぐ生後三ヶ月になる異母弟──乙若おとわか丸のためだろう。この世界では、三ヶ月を迎えるまでに天へと還る子が少なくないのだ。

 お祖父様のおかげで、おくるみの中の乙若丸は、本日も機嫌良さそうに手を動かしている。


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