※ 熱田のお祖父様(四)
私の視線に気づかれた季範公が、こちらを向かれた。空気の間を通り抜けたかと思うと、私の前に座していらした。
『見えておるな?』
『はい』
家族には見えておらぬゆえ、私たちは念話にて会話をした。
『そなたに、最後の言霊を贈ろう』
最後……
ここで頷けば、もう二度と会えなくなる。だが魂魄のまま、人の世に留めるわけにはいかぬ。季範公を幽鬼になどしたくない。
私は己の心と葛藤しながら、しぶしぶ頷いた。
季範公は、よく心を決めた、というように力強い頷きを返された。そして、ご指南の時の顔をなさった。
『《己の道を、行くがよい》』
『ご存知……なのですか?』
私は目を見開いた。
『私が夢にて交わした、神使の方との言葉を』
『いや。今のそなたに、ふさわしい言葉と思うたまでのこと』
『左様で、ございますか……』
あぁ……目に映るものが、涙でぼやけていく。
『己の信念に、誇りを持って生きよ。
『……はい』
この声に……
『その過程で得る苦しみも痛みも、すべて
『……はい』
この眼差しに……
『泣くでない。そのような顔をせずともよいのだ。私は、己の生を充分に生きた。これよりは、そなたら若人を見守っておる』
『……はい』
言葉より先に涙があふれ、うまく返答ができぬ。口を開かずとも、考えるだけで伝わるのに。
『我らの大切な子よ。そなたの道に、幸多からんことを祈っておる』
季範公がやさしくお笑いになった。……これだけは、きちんと言葉にせねば。
『お祖父様……季範公。……あなた様の永らくのお務め、ご指南に、心より感謝を申し上げます』
私は深々と頭を下げた。
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