厨の者たち(二)
主厨長は温石を布で包み、こちらへ参った。
「若様ようこそ」
三十代半ばの野性味のある大男が、忙しいことなど苦にしていないような笑顔で目の前に立った。
「うむ。忙しい時分に、すまなかった」
「いつものことですから、お気になさらず」
主厨長から手渡された温石を、落とさぬよう胸に抱く。厚く巻かれた布越しに、温かさがじんわりと伝わってきた。
早く、義母上に届けてさし上げよう。
「皆の仕事を増やしてしまったな。『ご苦労であった』と伝えてくれ」
常盤の義母上を見舞う旨を言づけておいたところ、この時間に間に合うよう手筈を整えてくれた。主厨長が機転の働く者ということに感謝する。
「連中は耳が良いですから、もう聞こえていると思いますがね」
苦笑する主厨長越しに、
こちらは抑えた声で話していた上に、最も遠い者で三間(約五.五メートル)ほど離れているのだが。そういえば先ほど、精神の訓練がどうとか申していたな。
以前、父上も仰っていたような……たしか……
「そなたらは、影の者なのか?」
「お小さい方々には、内緒ですよ」
おどけて片目を瞑ってみせる主厨長。
私は頷いて了承の意を示した。
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