義母上を見舞う(一)

 申一刻 (午後三時)を少し回った頃。

 桜草の花束と温石を携え、近江を伴い北対を訪れた。入り口に、取り次ぎの女房が立っていた。


「出迎え、ご苦労」


 私は、ねぎらいの言葉をかけた。


「常盤の義母上の見舞いに参った。義母上のおかげんはいかがか?」

「いつもよりは、お元気そうに見受けられます」

「左様か」


 少し安堵した。


 庇の間を通り御簾をくぐると、義母上が奥座に座っていらした。背格好も顔立ちも、少女のようでいらっしゃる。

 普段は淡い色をお召しになることが多い。だが本日は、蘇芳すおう色を基調とした重袿をお召しになっていた。表着も、いつもより華やかだった。少しでも、顔色を良く見せようとなさったのだろう。さらに、さりげなく脇息きょうそく(ひじ掛け)にもたれていらした。 

 義母上付きの女房・古参の周防すおうは、たいそう気がかりであるようだ。傍で見守る視線には憂いが含まれている。

 いつもよりは……という話だったが、この様子では、なるべく早くお暇したほうが良さそうだ。

 私は御簾近くの女房に温石を預けた。周防へ渡されるまでに、幾人かの手を経ていく。その作法を目に入れつつ、いつもの位置へ腰をおろした。


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