西対を後にして


 乾対とをつなぐ渡殿に歩を進めている時。


「若様。口になさることには、お気をつけられませ」

「うむ。……なぜ吉野が気を失ったのかは、わからぬが」

「あの子は、若様の会に入っていると申していたではありませんか」

「それは聞いたが」

「好意を寄せる方から『三日夜の餅』などと仰られたら、求婚されたのかと思いますわ」

「求婚? 私は童だぞ?」

「生まれながらにして、婚約なさっている方々もいらっしゃいますのよ」

「……あぁ、そうだったな」


 失念していた。


「私は、そのようなつもりはなかったのだ。三日三晩という言葉から、ふと連想しただけで」

「状況をお考えになるべきでしたわね。無自覚はほどほどになさいませんと、まことの『光の君』となりますわよ」

「私には、一夫多妻はできぬぞ。それに足る才覚があるとも思えぬ」

「もしそう思われるのでしたら、ご自重なさいませ」


 近江に、こんこんと叱られた。自重と言われてもな……意図した言動ではないゆえ。

 思うことを口にするというのも、なかなか難しいものなのだな。


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