乾対へ向かう道中にて(一)
近江が下働きの者から伝言を受けた。
「若様。玄斎師がお見えになったそうですわ」
「相わかった」
私は近江を伴い室を出た。
ここは
玄斎師にご教授いただく場所は
幸い、西対の方々には歓迎されているように見受けられる。本日も、ありがたく通らせていただこう。
庇の間に歩を進めると少しして、年若の女房たちの重袿が御簾に透けて見えてきた。九歳の私が十代の彼女たちを『年若』と称するのも、妙な話ではあるが。
「光の君がいらしたわ」
「菖蒲重のお召し物が愛らしいですわね」
「本日も良い香りですこと」
こちらから見えているのなら、向こうから見えているのは当然のことだが……最後の者は、すごいな。二間(約三.六メートル)ほど離れているのだぞ?
この距離で、ほのかな香りがわかるとは……警察犬並みの嗅覚を持っているのだな。いや、この世界に警察犬はおらぬが。ものの譬だ。
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