穏やかな光満つ(三)

 懸盤けんばん (お膳)が運ばれてくるまでの間、私は母上と静かに会話をする。ふたりきりの内緒話のようで面映ゆいが、朝の大切な習慣だ。

 母上のお召し物も、ようやく落ち着いて見られるようになった。先ほどは、皆の声だけでなく〝気〟もざわめいていたゆえ。

 本日は、くれない色を基調とした重袿かさねうちき。その上に表着うわぎをお召しになっている。

 二十五歳の母上は、私を筆頭に三人も子がいるとは思えぬ美貌をお持ちである。この美しさを引き立てる装束を用意するのは、大変だが楽しくもあるのだろう。母上付きの女房がさりげなく力を注いだ証が、そこここから見て取れる。

 目が合うと、母上は微笑まれた。


「本日は、金蘭の精ですね」


 金蘭は、ひとつの茎に黄色の小花をいくつも咲かせる、凛とした風情でありながらも愛らしい花である。

 熱田のおひいさまは、仕草も口調も、たとえる花の名まで優雅だ。


「母上は、天女様のようでございます」


 我が家の女性はどなたも美しいが、母上の美しさは格別に思う。身内贔屓と言われようとも、これは譲れない。


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