穏やかな光満つ(四)

「まぁ。そのような言葉を、どちらで覚えていらしたのでしょう」

「書物にございました。母上のように美しい方を、『天女様のごとく』と称するのだと」

いにしえの物語を読まれたのですね」

「はい。趣深い話にございました」


 室内は広く、ひそめた声は向かい側まで届くことはない。だが義母上方は、あたたかく見守ってくださっている。

 義平異母兄上の母君・三浦の方は山吹色、朝長異母兄上の母君・波多野の方は萌黄色を基調とした重袿を、それぞれお召しになっている。その上には表着を。おふた方とも、落ち着いた装いだ。


 我が家が円満なのは、母上と義母上方が互いを尊重していることが大きい。

 母上は正室としての立場を踏まえつつ。

 義母上方は側室として、至るところで母上を立てようとなさる。

 それぞれの方の心遣いを、素晴らしく思う。

 さらに肝心なのは、父上が母上を立てつつ、義母上方も分けへだてなく慈しまれていることだ。この世界に生まれた男として見習わねばならぬところだろうが……私はおそらく、一人の相手で手一杯だろう。


 その後ちょうど良い頃合いで、朱塗りの椀がいくつか載せられた懸盤が運ばれてきた。

 食前の言葉を父上が唱えられ、私たちも唱和した。

 各々の予定を確認しつつ行われる、和やかな会食。

 あたたかな家庭、あたたかな食事。

 彼女が欲していたものが、今ここにある。

 ……そなたの分まで、大切に致すゆえ……

 胸の内で彼女に語りかけ、私は目の前の幸せを噛みしめた。


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