穏やかな光満つ(二)

 朝長異母兄上と波多野の義母上も、


「もう少しで、産み月となりますが……」

「ええ。常盤の方とお会いしたら、いたわってさし上げるのですよ、朝長」

「はい。元服している異母兄上と私は、北対へ気軽に赴くわけには参りませんが」


 このように、ご自身のことのように心を痛め、案じていらっしゃる。

 この広間に控えている女房たちも皆、気がかりであるようだ。

 朝長異母兄上の言葉をお借りするなら、この中で、どの対へも気軽に赴けるのは童である私のみ。


「母上」

「何でしょう?」

「常盤の義母上の、お見舞いに伺ってもよろしいでしょうか? 南庭の花をさし上げたいのです」

「それは、良い考えですね。常盤の方の気が、少しは晴れるやもしれません」


 母上はやさしく微笑んでくださった。

 父上の様子を伺うと、了承の頷きを返してくださった。次いで近江に目配せすると、北対に伺って参ります、というお辞儀が返って参った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る