新たな心持ちで(四)

 近江の目が潤んでいる。突然のことに戸惑いを覚えつつも、嬉しさが上回り感極まったようだ。


「私は童の身だが、あるじとして精進して参るゆえ、これからもよろしく頼む」


 私は腿に手を置き、近江に向かって頭を下げた。

 

「……そのような……もったいないお言葉……」


 近江の目から、涙がこぼれた。

 私は膝を寄せ、頬をつたう清らかな雫を指でぬぐった。この者も守るのだと己に誓いながら。


「そなたの涙をぬぐう役目を買って出たと申したら、仲綱なかつな殿 (近江の婚約者)に叱られそうだな」

「まぁ……朝長様のようなことを仰いますのね」

「異母兄上ならば、これくらいで済まぬのではないか?」

「ふふ。そうかもしれませんわね」


 朝長異母兄上を引き合いに出してしまったが、近江の涙を止められたのなら、よしとしよう。


 その後、近江が落ち着いたところで私室の御簾みすをくぐった。

 近江を伴い、家族で朝餉あさげをいただく広間へと向かう。

 ひさし (廊下)を通ると、朝日に映える庭が目に入った。庭師が精魂込めている庭は、塵ひとつなく清々しい。


 後光のような朝の光が、木々や草花を照らし。花たちも応えるように、みずみずしく色あざやかに咲き誇っている。

 まるで我が家の女性たちを目にしているかのようだ。

 どの花も可憐で、健気に思う。


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