愛好家の会なるものがあるらしい(二)

「異母兄上方の会もあるのか?」

「はい。義平様や朝長様の会に入っていらっしゃる方々もおります。ですが……わたくしは、光の君が……」

「左様か。ありがたいが、私など、おもしろいところもなかろうに」

「いいえっ! 光の君の素晴らしいところでしたら、三日三晩語っても語りつくせませんわ!」


 頬を紅潮させ、情熱のこもった口調で訴えてくる様子は、ともすれば口説かれているようにも思える。ここで私は、ふと〝口説く〟と〝三日三晩〟をつなげて連想してしまった。


「三日三晩とは……まるで『三日夜みかよの餅』のようだな」


 己の口から出たとは思えぬ冗談。何だか笑いがこみ上げてきて、ふふ、と小さくこぼしてしまった。


「み、みか──」

「吉野!」


 私と話していた女房が倒れた音のすぐ後に、横にいた女房の叫び声がした。


「波多野の義母上、失礼いたします」


 私は断りを入れ、御簾をくぐった。

 室内が騒然とする。緊急時ゆえ、お許しいただきたい。


「この者は、吉野というのか?」


 吉野と呼ばれた者の傍らに片膝をつき、先ほど叫んだ年若の女房のほうへ顔を向けた。


「は、はい!」

「そなたは?」

「若狭、と申します」

「では若狭。ひとつ問う」

「何でございましょう」

「吉野は『本日はすぐれぬ』などと申していたか?」


 もともと持病などを持っているなら、義母上がご存知のはずだ。静観されている、ということは……


「いいえ。吉野の取り柄は、病知らずのところにございます」

「左様か」


 腑に落ちぬが、私の言に反応したのだろうな。何がいけなかったのか。


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