藍色の夢(一)

 誕生日当夜。いつものように、御帳台みちょうだいにてふすまを掛けて眠りについた私は、夢を見た。



 ──そこは、不思議な空間だった。


 ふれる空気は、ほんのりと温かく。

 広い空間には、くまなく張られた藍色の結界のみ。

 ……藍は、虫よけ……

 書物庫の文献には、藍の性質としてそう書かれていた。この結界は〝虫〟──つまり、外からの干渉を防ぐためのものだろう。

 私の小狩衣も、藍色だった。


 結界と小狩衣。

 双方から神気を感じて間もなく、少し奥のほうに気配を見つけた。近づくと、柳のように佇む方がいらした。


「ようこそ、と言ったら良いのかしら」


 少し低めの美声を、ゆったりと響かせてお話しになる、物腰の柔らかな方だった。

 神気を纏い、人界の者と会われるのは……

 私は、立礼にて臣下の礼をとった。


「お初にお目にかかります。私は、源義朝が三男、鬼武者と申します」

「綺麗な所作ね。あなたの〝気〟も清々しいわ」


 この方は、私の容姿と幼名がつり合わぬ、と、お笑いにはならなかった。


「恐縮に存じます。あなた様は『神使の方』とお見受けいたしますが……」

「えぇ。よくわかったわね」

「かつて熱田神宮の大宮司を務めておりました祖父より、教わったことでございます」

「……そう」


 事実を返答いたしただけなのだが、神気が揺らいだ。

 思わず顔を上げてしまうと、神使の方はなぜか泣きそうな顔をしていらした。


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