6.終末 -the end-
終わりの日。
世界が溢れ出す。濁流のように、私たちの世界の表層を押し流して、書き換えていく。
駅が森に埋もれた。住宅街に肉の塔ができた。鉄塔が黒い外壁の高層ビルに変わり、道路だった場所に田んぼができて異様な鳴き声が響き渡った。空に砲弾が飛び、困惑した歩兵たちがうろついている。こちらの世界の人たちの叫び声の中で、一人、また一人と轢き潰されたり、撃ち抜かれたり貪り食われたりして死んでいく。
どの世界の穴もあけなかった屋上で、日織は笑っている。私は彼女も含めて俯瞰しながら、穴が埋まることなく世界を磨り潰し覆い尽くしていくのを眺めている。
こんな終末世界で生きていける気もしない。死に方は選ぶにしても、私も日織も、いずれ死ぬだろう。
だから、その前にどうしても聞いておきたかった。Q&Aの続き、第二問目のその解答を。
「日織」
「なにー?」
「あなたの穴は、満たされた?」
日織は惚けたように固まった後、一際高く笑って、
「ぜんッッッッッッッッッッッぜん!」
小さくてもよく通る澄んだ声音で、強く叫んだ。
伊庭坂日織は、世界に穴をあけまくってめちゃくちゃにするような女だ。ろくでもないし、救いようもない。
けれど、彼女は確かに私の友達で、世界で唯一の友達で、なんなら好きでもあった。その生き方はあまりにも生き急いで清々しく、黄昏の中終末を見届けんとするその昏い輝きは、世界で一番綺麗だった。
だからこそ、それなりに付き合いの長い私は、彼女の結末を知っている。
背中に回した右手を、強く握り締めた。
Invader 伊島糸雨 @shiu_itoh
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