5.計画 -scheme-
日織は学校に来るようになると、それまで繰り返してきた人間関係のやり取りも何もかもをほっぽり出して、自分の足であちこちをめぐって回った。私はそれに付いて行って、駅の本屋で立ち読みしたり、住宅街にある喫茶店でお茶を飲んだり、鉄塔の高さを目測してみたりして時間を潰していた。日織はそんな私に構うことなく、早足に歩いては立ち止まり、人目に付きにくい場所を探してはしばらく作業に没頭するのを繰り返していた。
あの退屈そうに振る舞っていた日織の精力的なことといったらなんだか笑えてくるほどで、私は、なるほど、日織にとっては、自分の穴なんて目じゃないくらいの絶対的な大穴をこの世界にぶち開けようというのだから、そりゃあ興奮するに決まっていると妙に納得していた。世界を滅ぼすなんてまるで魔王だったけれど、私はそれを真横で見過ごすという点において、魔王の側近だと言えた。
そんな中で、私はある時昔のことを思い出して、日織に聞いたことがあった。どうして私を仲間にしようと思ったの、と。
すると日織は、まるでその質問への答えを用意していたかのように、淀みなく言った。
「君なら、私の願いも汲んでくれると思ったからだよ」
彼女の無言の囁きはいつものことだった。わかるよね、という声が、聞こえるような気がした。
日織の願い。
日織を寂しくさせないこと。侵略するにあたって味方でいること。そしてたぶん、一番大切なもう一つ。
日織は自分のことをよくわかっている。自分がどんな考え方をして、どういう行動をするかを踏まえた上で物事を選んでいる。だとすれば、自分がどこかで侵略に似た決断をすることも、わかっていたのかもしれない。
日織はいつか、絶対にやりすぎる。
私が予言するまでもなく、それを予想していたとしたら、日織が願うであろうことは、想像に難くない。
私はその想像を話しはしなかった。その時が来れば、どうせわかる。
世界侵略計画は、順調に進んでいる。
日織は穴をあける傍らで、穴が広がるスピードについても独自に計測していて、最初に固定した病院の穴が開いて噂になった日から、それまでにあけてきたものが一気に拡大して衝突する日を計算していた。もちろん、どこに玄人がいるかわからない素人計算だから、そうそううまくはいくまいというのも承知の上だった。とはいえまぁ、世界の終わりは劇的な方がいいというのは、私たちで共通の見解でもあった。
世界は計画されて終わっていく。
自分たちが生んだ穴によってその命を穿たれるのは、なんとも皮肉だな、と昼寝をする日織の髪を撫でながら、ぼんやりと考えた。
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