「殺す」と言ってくる女子から「クリスマスパーティーに来ないと殺す」と脅されました

「殺す」


 隣の席の山中やまなか里見さとみがそう言った時、オレの寿命は3年縮んだと思う。たぶん。


「いやいやいや! ちょっと待ってよ! オレ、なんか言った!?」


 すかさず理由を尋ねる。


 朝、登校してきたオレに

「私、昨日と今日どこか変わってるだろ?」

 と聞かれたので

「いつもと一緒じゃね?」

 と答えただけなのに。


 不良をもスライディング土下座させるほどの眼力で睨み付けて「殺す」と言ってきやがった。

 彼女の「殺す」は冗談じゃないから恐ろしい。

 事実、この学校の不良たちを何人も病院送りにしている。

 まあ、相手の方が因縁をつけてきたから正当防衛という形で停学は免れてるけども。


「髪の毛切ったんだよ、髪の毛!」

「うえぇえッ!?」


 どこがッ!? と言えるほどわからない。

 両肩までかかるセミロングの黒髪だけれども、今もって両肩にかかっている。

 前髪だって眉のあたりまで届いてるし、耳を隠すほどの髪の毛も健在だ。

 いったいどこをどう切ったのか。


「えーと……。里見さん。髪の毛切ったんですか……?」

「おう、昨日な。美容院で1センチだけ短くしてもらった」

「…………」


 わかるわけねえええぇぇぇッ!

 そんなの、わかるわけねえええぇぇッ!

 え? なにそれ?

 たった1センチ短くした髪の毛を気づけってか?

 無理じゃね?


涼太りょうた、あんた今、わかるわけねえーって思っただろ」

「い、いえいえ。とんでもございません!」

「ほんとに?」

「ほんとに」

「………」

「………」

「ウソつくんじゃねーよ! 目の動きでわかんだよ!」

「ひいい、ギブギブ!」


 朝から彼女にヘッドロックをかけられるオレ。

 なんなの、こいつ!


「悪かった、私が悪うござんした! 里見さんの髪型に気づかなくてすいませんでしたああぁぁ!」

「よし」


 するりと介抱されたオレは、ふうと息をついた。

 この女は口よりも先に手が出るから性質たちが悪い。


「でもさ、正直1センチなんて普通わからないよ? そりゃ、毎日鏡見てる里見はわかるかもしれないけど」

「わかれよな。女の子は、髪の毛が身だしなみで一番大事な部分なんだぞ?」

「……お、女の子?」

「………」

「ぎゃああああ、ギブギブ!」



 ……またヘッドロックをかまされました。



     ※



 山中里見とは、この高校に入って初めて知り合った。

 1年2年ともに同じクラスだったが、席が隣同士になったのは初めてのことだった。

 それまではほとんど口をきいたことのない相手で、彼女については噂でしか聞いたことがない。


 曰く、ヤンキーの下っ端が500人もいる。

 曰く、ケンカでは負けたことがない。

 曰く、暴走族の族長で毎晩単車を乗り回している。


 本当かどうかはわからないが、相当ヤバい女だということだけは知らされていた。


 にしても解せない。

 なんで彼女はオレにこうも毎日絡んでくるのか。


 今日も今日とて「亮太、昼メシ食いに行こう」と誘ってくるし。


「オレ、弁当だから」

「プラス学食でいいだろ」

「よくねーよ!」


 そんなに食えるか。


「ちっ、最近のヤローどもは小食だな」


 ぶつくさ言いながら里見は学食のほうへと去って行った。

 ほんとなんなの?

 マジで疲れるわあ。



 そんな彼女からクリスマスパーティーの招待状をもらった時、人生詰んだと思った。

 けっこう大きめの紙に手書きで「クリスマスパーティー招待状」と書かれている。



『12月24日。放課後、体育館裏集合。来ないと殺す』



 あり得ます?

 招待状に「来ないと殺す」なんてあり得ます?

 いや、もう恐怖しか感じないんですけど。


 恐る恐る里見に目を向けると「こっち見んじゃねえよ、殺すぞ」と言われた。


 殺すがブームなのか? 彼女は。



     ※



 そんなこんなで12月24日、放課後。


 オレは決められた通り、体育館裏に向かった。

 っていうか、クリスマスイブだっていうのにオレに予定があるとは思わなかったのだろうか。

 まあ、あったとしてもお構いなしだったんだろうけど。


 クラスのリア充どもはみんなイチャイチャ、イチャイチャと街に繰り出していった。

 正直、里見ではないけど「死ねばいいのに」とは思った。



 体育館裏に着くと、そこには里見が仁王立ちで待ち構えていた。

 彼女はオレを目にした瞬間、不気味な笑みを浮かべた。


 怖えーよ。


「亮太、メリークリスマス!」

「え? あ、ああ。メリークリスマス」

「よく来てくれたな」

「いや、来ないと殺すって書いてあったし……」

「はあ? 本当に殺すわけないじゃん! バカなの?」


 バカとまで言うか。

 この女の「殺す」は本気っぽくて怖いんだよ。


「……で? 他の人たちは?」


 オレはあたりを見渡して言った。

 今、この場にはオレと里見しかいない。

 けれどもそんなオレの言葉に彼女は「は?」と眉を寄せた。


「他の人たち?」

「だってクリスマスパーティーだろ? みんなでワイワイするんじゃないのか?」


 瞬間、里見は「ぷー!」と吹き出した。


「おいおい亮太! なんだよそれ!」

「え?」

「みんなでワイワイって! ゲラゲラゲラ! 子どもかよ! ゲラゲラゲラ!」


 ゲラゲラって笑う人、初めて見た。


「二人だよ、二人! 二人きり!」

「は?」

「二人でイブの夜を満喫しようぜー」

「………」


 ダッシュで逃げ出すオレ。

 その首根っこをむんずと捕まえる里見。


「ひええ!」


 逃げられない!


「別にいいじゃねえか。逃げんなよ」

「な、何が目的なんでしょうかあぁぁ……」


 イブの夜に里見と二人きりのクリスマスパーティー……。

 ヤバい。

 犯罪のにおいしかしない。


「目的? 目的はそうだなぁ。二人で楽しみたい」


 クスリ案件きたーーーーー!!!!

 白い粉とか出てきたらどうしよう……。


「バ、バカヤロー! 変な事言わすんじゃねえよ!」


 ヒャッハーと笑いながらバンバン背中を叩いてくる彼女。

 もはやオレも笑うしかない。


「は、はは……」

「そういうわけだから、今から私の家な」

「家?」

「クリスマスパーティーといったらホームパーティーだからな」

「は?」

「まずはケーキ買って、チキン買って……あっ! クラッカーも忘れちゃなんないな!」

「あ、あのー……里見さん?」


 着々と計画を立てはじめる里見にオレは声をかけた。


「なんだ?」

「つかぬことを伺いますが……クリスマスパーティーって里見さんのご自宅でなさるんで?」

「当たり前だろ? クリスマスパーティーなんだから」


 ダッシュで逃げ出すオレの首根っこが、再度捕まえられる。

 彼女、借金の取り立て屋でもしてるのか?

 手慣れ過ぎてて怖い。


「まあまあ、慌てんなよ。はしゃぐ気持ちはわからんでもないが」


 この女はオレが今どんな心境かわかってるんだろうか。


「へっへっへ、こういうのはゆっくり、しっかり、慎重に準備しないとな」


 うわあ……。

 顔が脱獄を計画してる犯罪者に見える……。


「あ、そうそう。今晩、うちの両親仕事でいないから」

「へ?」

「二人きりのクリスマスパーティー楽しもうぜぇ」


 ダッシュで逃げ出すオレの首根っこがまた掴まれたのは言うまでもない。



     ※



「ここが私の家だ」


 スーパーやら雑貨店やらでケーキやチキンやクリスマスグッズを買ったオレは、里見に連れられるまま彼女の家にやってきた。


 予想していたよりも、はるかに普通の家だった。

 てっきり崖の上にそびえたつ悪の要塞のような家を想像していたんだけど。


 ポカーンと眺めるオレに里見は玄関のドアを開けて言った。


「何ボーっとしてんだよ。早く入れよ」

「あ、ああ……」


 ガサガサと両手に抱える買い物袋を持って中に入る。


「あ、そうそう。両親はいねえけど弟がいるからよろしく」

「お、弟?」

「小学生のクソガキだから無視していいよ」

「クソガキって……」


 お邪魔しまーす、と恐る恐る玄関から靴を脱いで上がると、奥の方からトテテテテと低学年くらいの男の子が姿を現した。


「いらっしゃいませー」

「ふおおおおおお!!」


 思わず声をあげてしまった。

 か、か、か、可愛い!!

 なんだこの美少年は!!

 可愛すぎるんだけど!?


 思わず頭をなでなでしようと手をおこうとしたら、ばちーんと弾かれた。


「触るな、ゲス野郎」

「ゲ……」

「オレの頭に手を置いていいのは姉貴だけだ」

「………」


 な、なにこの弟。

 見た目めっちゃ可愛いのに、言動と表情が合ってないんですけど……。


俊雄としお、亮太は大事なお客さんだからな。失礼なこと言うんじゃないぞ?」

「はいですぅー」


 俊雄と呼ばれた弟くんは、くるっと里見に顔を向けると天使のような笑みを浮かべた。

 そして彼女が奥に引っ込むと、改めてオレに敵意むき出しの表情を見せる。


「オイ、ゲス野郎。姉貴にクリパ誘われたからってうかれんじゃねえぞ。オレは認めてねえんだからな」

「な、何をですか?」


 ヤバい、小学生相手に敬語しか出て来ない。


「てめえが姉貴の……姉貴の……げふん、げふん」

「………」


 姉貴の……なに?

 エモノか何か?


「とりあえず、姉貴を泣かせたら殺す!」


 殺すが流行ってるのか? 山中家は。

 親の職業が知りたいよ。

 そっち系の仕事じゃないよな?


 そうこうするうちに、里見が顔を出した。


「亮太、いつまで弟とくっちゃべってんだ。早く来いよ」

「チッ、だとよ」


 小学生に舌打ちされるオレって……。




 里見の部屋に入ると、そこはなんというか、これまた無機質な感じの部屋だった。

 机とベッドと書棚があるだけ。

 これといって特徴のない部屋だ。


「へっへっへ、いつもはサンドバッグとかパンチングマシーンとかサンドバッグとかバーベルとかサンドバッグとかあるんだけどな。弟の部屋に移動させといた」


 ここはジムですか?

 サンドバッグが3つもあるんですか?


「適当に座ってくれ」

「は、はい……」


 とりあえず邪魔にならないように部屋の隅っこに座る。

 すると里見が言ってきた。


「そんな隅っこに座んなよ、こっち来いよ」

「い、いえ、ここで十分です」


 いつでも逃げ出せる準備をしとかないと。


「隅っこが好きなのか? ゴキブリみたいなやつだな」


 ゴキブリって……。

 他に言い方ないの?


「ま、いいや。亮太がそこがいいって言うんなら」


 そう言って彼女もオレの隣にちょこんと座ってきた。


「ごっへえぇッ!?」

「なんだよ」

「いや、ここ座んの?」

「だって亮太はここがいいんだろ?」


 だからって自分の部屋なのにオレと同じように端っこに座らなくても……。


「へっへっへ、こうしてるとクリスマスカップルみたいだな」


 ポッと顔を赤らめてとんでもないことを言い放つ暴力女。

 オレは凶悪犯と同じ檻に入れられた囚人の気分だよ。


「よーし、さっそく乾杯と洒落込もうぜー」


 里見は紙コップを取り出すと、スーパーで買ったオレンジジュースをとくとくと注ぎだした。


「私、つぶつぶが入ったオレンジジュースが大好きなんだよ」

「あ、そうなんですか」

「はい、亮太の分」

「ども」

「そしてこっちは私の分。つぶを多めにしてやったぜ」

「それはようござんした」

「それじゃ、かんぱーい!」

「あ、かんぱい」


 紙コップだから音は鳴らなかったけれど、お互いの紙コップを重ね合う。

 っていうか、マジでわからん!

 彼女の目的が全然わからん!

 オレ、なんで連れて来られてるの!?


「ぷっはー! やっぱり学校が終わったあとのオレンジジュースは最高だな!」

「いい飲みっぷりで」

「亮太も飲め飲め」

「いただきます」


 そう言ってオレンジジュースを一気に流し込む。


「お前もいい飲みっぷりだな!」

「ど、どうも」

「たくさん買ってきたからな。たくさん飲め」


 とくとくと紙コップにオレンジジュースが追加される。


「私な、オレンジジュースは世界で一番美味しい飲み物だと思ってるんだ」

「あ、そうですか」

「オレンジジュースがあれば他に何もいらないってくらい好きだ」

「それはオレンジジュースにとっても光栄ですね」

「だろだろ!? この私に好かれるなんざ、泣いて感謝してほしいくらいだぜ」


 泣いて感謝するのはあんたのほうだよ、なんて口が裂けても言えない。


「あ、そうだ。クラッカー鳴らすの忘れてた」


 そう言ってガサゴソとクラッカーを取り出す里見。

 ぶっちゃけいらないと思うんだけど……。


「あの、里見さん? クラッカーは別に必要ないんじゃ……」

「バカヤロー! こういうのはな、雰囲気が大事なんだよ。クリスマスパーティーといったらクラッカーだろ!?」

「そうかなー」

「クラッカーだろ!?」

「いやー、どうだろ」

「ク ラ ッ カ ー だ ろ ?」

「………………………はい」


 というわけでクラッカーを持たされた。

 こういう強引なところが里見らしい。


「よーし、せーので鳴らすぞ。せーの!」


 パーン! とクラッカーを鳴らすオレたち。

 二人だけで鳴らすこの虚しさといったら……。


 クラッカーの中に入っていた紙がひらひらと部屋中に広がっていく。

 オレと里見は二人で黙ってその光景を見つめていた。


「……なんか、思ってたのと違うな」

「そうですね」


 オレは想像通りだったけど。


「まあ、いいや。こんなこともあろうかと、クラッカーはもう1セット用意してあるんだ」

「こんなこともあろうかと!?」


 なんだよもう1セットって!

 こんなこともあろうかと思ったら普通は用意しないよね!?

 読めない、彼女の行動がまったく読めない。


「今度は盛り上がっていこうぜ」

「は、はい……」


 そんなこんなで謎のクリスマスパーティーは夜まで続いていった。



    ※



 チキンもケーキも食べ終え、オレンジジュースもなくなりかけた時、里見はいつになく神妙な顔つきで言い出した。


「なあ亮太、変な事聞いていいか?」

「ん? なに?」


 変なことばっかり言ってる里見の変なこと。

 想像もつかない。

 オレはオレンジジュースを口に含んで彼女の言葉を待った。


「……お前さ、好きなやつとかいる?」

「ぶーーーー!!!!」


 思わず飲んでいたオレンジジュースを吹き出してしまった。


「うぉいッ! ひとの部屋汚すんじゃねえよ!」

「げほっ、げほっ、ごめんごめん。でもいきなり何!?」

「だから変な事聞いていいかって言ったのに」


 言ったけども!

 想像の斜め上をいってビックリしたわ!


「なにその質問!?」

「いや、亮太に好きな女とかいるのかなーと思って」

「いないよ! いるわけないじゃん!」


 いたとしてもこいつに教えるわけがない。

 すると里見はなぜか嬉しそうに「ふーん、いないのか」と笑った。


「そうか。いないのか。へへ」


 不気味な笑みがちょっと怖い。


「……あのー。そういう里見さんはいらっしゃるのでしょうか?」

「私? いるよ」

「え? いるの?」

「いるよ。好きなやつ」


 予想してなかった答えが返ってきた。

 こんな暴力男女に好かれるなんて!

 なんて可哀想なやつ!


「あはは。お前に好かれるなんて相当だな。誰? そいつ」

「聞きたいか?」

「教えてくれるならな。ご愁傷様の意味を込めて花束を贈ってやらないと」

「それはな……」

「うん、それは?」

「お前」

「……」

「……」

「……へ?」

「私の好きなやつ、お前」

「はい?」

「お前だよ、亮太」

「………」


 ん?

 なに?

 今、オレの名前言った?


「……えーと、里見さん? もう一度言ってもらってもよろしいでしょうか?」

「だからお前だよ、私の好きなやつ」

「……誰?」

「だからお前」

「……」

「……」

「誰?」

「だからお前だっつってんだろうが、ゴルアァッ!!」

「ひえええっ!!!!」


 ちょちょちょ!

 入ってる!

 思いっきりヘッドロックかけられてる!


「聞こえてるッ!? ねえ、聞こえてるッ!?」

「はいいい!!!! 思いっきり聞こえてますううぅぅ!!!!」


 そして死にそうですううぅぅぅ!!!!


「なんなんだテメーはよ! こっちは勇気出して告白してんのによ!」

「さーせん! さーせんした! 里見さん!」


 告白うんぬんの前に殺されそうになってるんですが!?


「私は亮太が好き! わかったかこのクソゲス野郎!」

「わかりましたーッッッ!!!!」



    ※



 ようやく解放されたオレは、改めて彼女と正対した。

 オレは正座。

 彼女はあぐら。

 オレ、告白されたんだよな? 彼女に。


「……で?」

「はい?」

「返事」


 返事って、付き合うかどうかってこと?

 オレは飲みかけのオレンジジュースを飲みながら「うー」とうなった。

 ぶっちゃけ、里見がオレのことを好きだなんて1㎜も思ってなかった。

 オレ自身、彼女を女だとは思ってなかったし(失礼)。


 でも告白されてみれば今までの行動すべてが腑に落ちた。

 そういえばこいつは事あるごとにオレにちょっかいを出してきていた。

 思えば今まで気づかなかったほうがおかしいとさえ感じる。


「なあ、里見」

「なんだ?」

「先に教えて欲しいんだけど、どうしてオレなんだ?」

「なにがだよ」

「だってさ。言っちゃなんだけどオレ、そんなにカッコよくないぞ? 運動もできないし、勉強もできないし、いいとこなんて一つもないのに」

「そうだな」


 あ、否定しないんだ……。


「でもしょうがないだろ。好きになっちまったんだから」


 なんか歌のタイトルみたいなこと言い出した。


「それともなにか? 理由がなくちゃ好きになっちゃいけないってのか?」

「い、いや別に……。恋愛は自由だと思います」

「だろ? 自分の気持ちには正直でいたいよな」


 里見の場合は正直すぎると思う。


「それで?」

「はい?」

「返事」


 最初の質問に戻ってしまった。

 オレは「んー」とうなって答えた。


「ごめん、もう少し待ってもらえるかな」

「なんで?」

「だって、こんな大事なこと、即答できないだろ?」


 なんたってオレの命がかかっている(かもしれない)し。


「……うん、わかった」


 渋々といった感じで里見はコクンと頷いた。


「でも、なるべく早めに頼むぜ」

「なんで?」

「だってほら」


 ふと目を向けると、部屋のドアの隙間から弟くんがジーッとこちらを見ていることに気がついた。


「あ、あれ!? 弟くん!?」

「私のこと、ああやっていつも心配してくれてんだよ」


 心配というよりストーカーでしょ、この覗き方。

 大丈夫? 山中家。


 弟くんはドアの隙間から覗き込みながら

「てめえ、付き合うのか付き合わねえのか、はっきりしろよコラ」

 と呟いてた。


 怖。


「ま、まあ、なるべく早めに答えを出すよ……」

「ああ、待ってる」


 そう言って里見はニッコリと笑った。

 いつも怒ったような表情の里見の笑顔に、オレは不覚にもちょっとドキッとしてしまった。




 その後、オレは正式に彼女の告白を受け入れ、近所でも評判のツンデレリア充バカップルと呼ばれるようになるのは別の話。

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アオとハル~ラブコメ・恋愛短編集~ たこす @takechi516

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