八、形見

【語毒】

 自分の病的世界と向き合い、その自分と語り続けることを語毒と名づける。

 内側に入っていかず、寂しさを感じるものを孤独と呼ぶ。

 私は前者のようだ。

 後者はどちらかというと健康的だ。


【忘却】

 心が亡くなると書いて忘れるという字になる。

 忘却とは何なのか。その前に記憶の意味を書く。

 記憶とは覚える力だけではなく引き出す力でもある。

 たいていは失われたものを引き出す力にあたる。

 大事な人を失ったけれど、忘れないでいることで何かを引き出すことができる。

 過去のあやまちを忘れないことで、それに抗う力を引き出すことができる。

 部屋に植物があることを思い出すことで、その植物の力を引き出すことができる。

 忘れるとたいてい枯れる。

 忘れるとたいていは失う。

 だから忘れない、ということが大事だ。

 では何故忘れるのか。


 ――結局わからなくて放置(浦島による注釈)


【根源泥岩】

 今日は思い通りにいかないようだ。

 でもそれでもいい。

 私が私であるためには、忍び耐えるしかない。

 世界の進化と向上を、その瞬間、私も享受する。


 p. 1


 浦島は静かにノートを閉じた。表紙には「感覚ノート」と書かれている。

 当事者A。

 重い統合失調症の患者だった。彼は何も言わずにノートだけを残して失踪した。

 ノートといってもつくりは全部コピー用紙で、その外側に厚紙が貼られているだけのものだった。どうやら手書きのノートをコピーしたものらしい。ものすごく偏った文章で、字もとてもきれいとはいえないものだったが、内容は少し変わっていた。最後のページだけが真っ黒で文字が読めなかった。どうやら何かをこぼした跡のようだ。

 このノートは知人である浦島の元にある日、突然郵便で送られてきた。


 浦島は目を瞑って見えない何かを振り払おうとした。

 迷ってはいけない

 自分にできることをするしかない

 心でそう決めて机の前を見た。


 雨田夜子

 NO.2075


 カルテに記された診察番号を見て、浦島は少しだけ安堵した。

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電魔 THE ANGEL BLAST 小作 @kyuzubako

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