第24夜 その朝
朝を迎えた。
そして、春が来た。
季節は、夜に移り変わると言う。
その境目を越えることが出来た。
部屋の掃除を終え、テーブルの上には、この日記だけだ。
太陽が部屋の中におずおずと入り始めている。
窓脇に切り取られた光は、もうすぐ俺の足元に届くだろう。
その時が、その時だ。
昨日から今日にかけて寝たというほど寝もしていないが、途中ウトウトしかけた時に、見た夢がある。
真っ暗な闇の奥、真ん中辺りにある光が、少しづつ大きくなる夢。
最初、光に近づいているのかと思ったが、光はただそこに有り、包み込む様に大きくなっているのに気づいた。
太陽の様に、眩しい光じゃない。
乳白色の、霧のような、それでいて、夢の中でもそれと分かるほど温かくて優しい光。
画面を黒から優しい乳白色に塗り替えていく光の中から、誰かが呼んでいる声がした。
懐かしさと、愛おしさに満ちた、素晴らしい声。
そこで、目が覚めた。
最高の気分だったよ。
さて。
ここまで読んでくれてありがとう。
銃は、置いていくし、残った食料は配達係が片づけてくれるだろう。
やつじゃないが、希望の春が来たからには、戦争は終わると思う。
少なくとも、一度は。
この日記は、クローゼットの引き出しに仕舞う。
いつか、孤独な旅人が訪れ、やり切れない夜に、思わず開けてしまいそうな場所に。
鳥の絵も残していく。
馬鹿げたことを、馬鹿げた事として残すのが、この塔に居たものとしてのせめてもの仕事だ。
塔の入り口に文字を刻んだ誰かの様に。
アトーンメント。
贖罪の塔。
俺は今日、その塔を降りる。
階段は使わない。
窓から出ていく。
この世界の営みから、降りるために。
夢で見た光に抱かれるように、大地に抱かれたいんだ。
生きる場所を探すように、死ぬ場所と死ぬ時を探してたんだ。
それでは、さようなら。
ありがとな。
あんたに会えて嬉しかったよ。
バイファル・アインホルン
スナイパーの夜 市川冬朗 @mifuyu_ichikawa
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