敗者は考える
蒼狗
思案する
拳が空を切る音が閑散とした道場に響く。
拳を脇の下まで引き、前に突き放つ。引き、放つ。
無心で基本動作をすると落ち着きを取り戻していくのがわかる。逆立った心を抑えるにはこれが一番の方法だった。
試合で負けた。負けたことを悔いているわけではない。勝負の世界なのだから実力で劣れば試合には負ける。負けたらまた鍛え直し、次の試合で勝てるように練習をすればいい。
だがあの試合での敗北は違った。
力量の違いでもない。運でもない。私の心の弱さが招いた結果だ。
父と二人で取るはずだった勝利。師範の父と二人で稽古に励んできた。どんな日も。
そんな父が倒れたと聞いただけで無様に負けた。心が乱れた。心の弱さも鍛錬不足と言うのであればそうなのかもしれない。
「なぜここにいるんだ。負けたのだから稽古に励め」
試合終了後に訪れた病室で、父は私にそう言い放った。私は何も言わずに逃げるように病室を後にした。あとから聞いた話だが、元から心臓が弱く試合に興奮した結果倒れて病院に運ばれたらしい。あれほど体を鍛えれば健康になると行っていた人が、鍛えてもどうにもならない部分の病気になるとは皮肉なものだ。
試合に負けたのは父のせいではない。私の心の弱さのせい。そう思わなければいけないのに、心の奥底では父が倒れたことを言い訳にしている私がいる。
いくら拳を打っても波が立ったままだ。
次の試合はどうなるのだろうか。どうなろうが勝たなければいけないが。
拳が止まる。
父が死んだとき、私は試合に負けるのだろうか、それとも勝てるのだろうか。
波がまた立つ。
私は空手を続けるだろうか。
考えを避けるように私は正拳突きを繰り返した。
敗者は考える 蒼狗 @terminarxxxx
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