うつくしきもの

長月瓦礫

うつくしきもの


ふと、見上げた星空は僕をあざ笑っていた。

そんなにマヌケに見えるか? それでも構わないよ。


僕は夜風と軽やかに踊る君の姿を探していた。


昨晩、いつものように家に帰っても、返事はなかった。

部屋の窓の端が少しだけ開けられていたのを見て、僕に悪寒が走った。


そういえば、鍵はかけていなかった。

音を立てて窓を開ける。


一定間隔で置かれている街灯、街路樹、人の流れ以外に何も見えない。

どこに行ったんだ? 僕はカバンを放り出し、玄関を飛び出した。


野性味あふれるつややかな瞳、流れるようなドライな視線を向けられると、思わず心臓がはねる。芯の通った美しい眼は、僕の本心を見抜いているように思えた。


スッキリとした顔立ちでスタイルも抜群に良くて、どんな服も華麗に着こなして見せる。贔屓目に見ても、誰よりも綺麗で可愛い。

誰にも負けない、世界で一番ステキな君。


しかし、その存在は自分の思っている以上にちっぽけで、なにかの拍子で壊れてしまうんじゃないかとハラハラしてしまう。彼女は今、どこにいるのだろうか。

記憶にあるあの面影を探してしまう。


彼女が去ってから、まだ数時間しか経っていない。

あの窓の隙間を忘れたくても、忘れられない。思わず舌打ちをする。


「いた……!」


町中を探し回ってようやく見つけた。

彼女は近所の公園のベンチに丸まって眠っていた。

そんなところにいたのか。全然気づかなかった。


「どこにいたんだよ! もー!」


僕の呆れ交じりの声に、彼女はのんびりとした声で答える。

遅かったじゃない、どれだけ時間がかかってるのよ。

大きなあくびをしながら、僕を横目で見る。


こっちはどれだけ探し回ったと思ってるんだよ。

マイペースに生きる、自由な姿をうらやましく思う。


「ほら、帰るよ」


彼女を抱き上げて、帰路につく。

こんなに振り回される毎日がとても楽しいものだなんて、思わなかった。


このまま時が止まってしまえばいいのに。

目を細めている彼女を撫でながら、僕はため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うつくしきもの 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ