第47話『試験結果』
「ティレイ・フラウス・ホーネス……。第四王女だと……」
俺はそれを聞き絶句した。
「そう、この子はタルミタ・ルンデン・ホーネスと王宮筆頭侍従のトリエスタ・アーバインの間に生まれたいわゆる隠し子という奴ね」
天野は事も無げに説明してくれた。
「隠し子……」
ティコが俺の体にひっしとしがみついた。
「その後、兄であるロック・アーバインに引き取られ兵士の子として育てられたのよ」
「それは本当の事なのか……」
「ええ、もちろん。私の目は誤魔化せないのよ。それにこの子も知ってるはずよ。なにせあの世界では神殿に行けば神託の石板で真名を知る事が出来るから」
成る程、ティコが神殿に行きたがらなかったのはそんな理由があったからだ。真名すら明かす事が出来ない理由である。きっとこれまでひた隠しにしてきたのだろう。だから自分の名前にあんなにも拘りを見せたのだ。もしかして、最後まで街を守ると言ったのも王族としての責任感故なのかもしれない。
「なあ、ティコ。お前はどうしたい」
ティコは俺の体に頭を付けたまま呟くように答える。
「あたいは……。あたいは王都に帰りたい……。でも、もう、ルクリヤーは無いんだろ」
それに天野が答える。
「そうね、少し鳥がおイタをしたから生き残った人はいたけど、もう、街として復活はしないわね。国も滅んじゃったし」
「だったら……ここに……」
消極的な答えだがこの場合は他に選択肢はない。それこそ危険な魔獣の跋扈する場所になり果てたあの街には帰る事すらできないのだ。ティコの生きて行く場所は、もう、そこにない……。
神に見捨てられた街、王都ルクリヤーは百年後に再発見される。それまでは静かに廃墟として眠り続けるのだ。
それにしても、何故ティコが突然日本語を話す様になったのだろう……謎だ。
その後も俺たちは話し合い、一旦ティコの身柄はこのワールドアドベンチャーで保護という形で預かる事に決定した。
そして、俺は――。
「あなたは……まあ、一応、合格ね。しばらくは仮採用のアルバイトで頑張ってみて頂戴」
という事に決まった。
本来であれば試験放棄の時点で不採用になるところだったらしいが、一応、生還したのでなんとか合格という事らしい。さらに、今回生き残れたのは
ちなみに建比良鳥はあの後も空中神殿を乗り回して矢を放ちまくり、アウケラス神にめっちゃ怒られたそうである。現在、謹慎処分中とのことだ。稲田姫が蒼い顔をして慌てていたのはその所為もあるようだ。しかし、盗んだ空中神殿で走り出す……。一体どこのヤンキーなのか。十五歳でもあるまいに。
それから俺は仕事に必要な書類を何枚か書き、久しぶりの家に帰る事にした。
「また明日、会いに来るよ、ティコ」
俺はティコの頭を優しくなでた。
「うん」
「しっかり日本の事、勉強して学ぶんだぞ」
「うん、わかった」
ティコはこのビルの上層階にある居住施設でしばらくこちらの生活の事を学びながら暮らすこととなった。面会は自由という事で、ここに仕事を斡旋して貰いに来るついでにしばらくは毎日通うつもりだ。
「それではティコの事よろしくお願いします」
俺は天野に話しかけた。
「ええ、任せて頂戴」
大きな胸をティコの頭にのせる形で天野は答えた。ちょっとそのポジションを代わってほしい。
「それでは失礼します」
「ええ」
「また明日な」
そして、俺は会社を後にした。
自動ドアを開き外へ出た。見上げると空が丁度、夕焼けに染まっていた。
夕日を受けて赤く染まる街並み。駅から帰宅を急ぐ人々。道路には自動車が走り、街灯に明かりが灯る。いつもの馴染みの光景……。
しかし、この時の風はいつもより優しく暖かく感じた。
そういえば、今日はあまり食事を取っていなかった。家に帰ってご飯を作るのも億劫だ。よし、そこのコンビニで弁当を買って帰ろう。道路を渡りコンビニの前でふと振り返る。
「あれ?」
あんなところにパン屋がある……。
そのパン屋は知っている。駅前に来た時によく焼きカレーパンを買う店だ。小さな店舗なので、そこにあると気が付かなかったのだ。
ん? という事は……。このワールドアドベンチャーのビルが建っている場所には以前に何があったのだろう……? うーむ。
「ああ! 思い出した!」
ここには確か古い神社があった。
そう、名前は……〝
ボッチでニートな俺はバイトで神のお使い始めます。
第一章:ネムリア聖女救出作戦 END
※コンテスト公募の為一旦、第一章のみで完結させていただきます。
ボッチでニートな俺は、バイトで〝神のお使い〟始めます。 永遠こころ @towakokoro
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