5
同じ道を通って車の停めてある空き地に戻った。空を見ると、真っ暗な空に白い砂を撒いたような無数の星が瞬いていた。
お互い体力の消耗が激しかったから、車を走らせて最初のコンビニエンスストアで食糧を買って、最初に出会ったラブホテルに入った。内装は非常に地味で、ビジネスホテルみたいだった。
旋は異常な食欲で、おにぎりを四個平らげた上で、サンドウィッチを食べて、アンパンを食べていた。
「ツインソウルって知ってる?」
旋は口に手を当てながらアンパンを噛み締めていた。
「ソウルメイトならきいたことあるけど」
「高校生のとき、希和と出会ったときに、ほかのひとには感じないものを感じて、違和感があったから調べたんだ。もしかして、俺たちはもともとひとつの魂だったのかもしれないとずっと思っていた。同じところにホクロがあるし」
「同じところにホクロがあるとか、そんなの関係あるの?」
「あるって本に書いてたけど」
旋は五〇〇ミリリットルのお茶を一気に三分の二ほど飲み込んだ。口元を雑に拭って、唾を飲み込んだ。
「俺たちは、前世からの恋人だったんだね」
ほんとうかどうか、実際のところはわからない。あのおばさんの小人の話と同じ。だけど、これはわたしたちにとっての「現実」。
「出会えてよかった」
「俺も」
旋は強く頷いた。
「こうして、出会えてよかった」
いつも同意するだけの旋がそうやって自分で言ってくれたことが嬉しくて、涙が止まらなくなった。旋も泣き出した。めちゃくちゃに泣いて、お酒を飲んで、笑って、知らないうちに眠っていた。
遮光カーテンで閉めきった部屋に日差しなんて感じず、体内時計で目が覚めた。シャワーを浴びて、むくみ顔の旋を叩き起こした。
車に乗って、TSUTAYAで借りた六枚目のCDをかけた。ウイスパーボイスの女性が歌うバラードのCDだった。空腹を保留にしたまま、高速道路に乗って最初のパーキングエリアで牛丼を食べた。お互い無言だった。
車に戻ってもお互い黙っていた。真面目にCDを聴いた。コンディションによってはめちゃくちゃよく眠れそうな女性の声が、いまは、変に脳をチクチクと刺激し続けていた。
「なんか思ったんだけど」
旋は真面目に進行方向を見ていた。
「俺らは結婚、しなくていいんじゃないかな」
わたしはバラードの音量を少し下げた。
あの瞬間から、わたしもなんだかそう思ってしまった。
「うん」
「ひぇ?」
旋はわたしが同意すると思わなかったのか変な声を出した。
「これは変な意地みたいなもののような気がするけど、わたしもそうしたい」
「そうだな」
わたしはわたしで、前世の誰かじゃない。だけど、わたしの気持ちで、そうしたかった。誰かが認めてくれるわたしと旋の関係でも、結婚したほうが利点があったとしても、なんとなく、そうしたかった。愛の形はそれぞれ。これが、わたしと旋の愛の形だ。
車を走らせている間ずっと、思い出話をしていた。何百回も同じ話をしても飽きない。旋と出会えたこの幸せを忘れないようにしたかった。
駐車場に車を停めてマンションに入った。わたしたちはキスをして、別々の部屋に帰った。
エスペシャリーシンパシズム 霜月ミツカ @room1103
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