糸佳とデート、そのとき真奈海は
辻褄の合わない社長令嬢の引越し準備
「ほら優一くん。こっちですよ〜!!」
幼馴染が妹になり、そしてまた再び名前で呼んでくるようになった糸佳。
今だってもちろん、僕と糸佳の関係は兄と妹であることに変わりはないけど、元々血の繋がりなど存在しないし、そもそも年齢だってたったの三日違い。兄と妹くせに、同じ教室で学ぶクラスメイトなわけだから、兄妹と括られる方がやはり不自然だった。そんな糸佳はもう『お兄ちゃん』と呼んでくることなどなくて、昔ながらの関係性をもう一度取り戻そうとしているようにも感じられた。
それがどういうことだか結局のところよくわからないけど、止まっていた時間が再び進みだしたような、そんな風にも感じているんだ。
「ちょっと待てって。そもそもなんでこんなところにいるんだよ?」
「もちろんイトカの引越し準備ですよ! 前にそう言ったじゃないですか」
「だってここ、ホームセンターだぞ?」
「はいです。引っ越しと言ったらもちろんここですよね?」
「あながち間違っていないが、どう見てもここは家具売場だよな?」
「ですです! 新しい生活に重要なものばかりです!!」
ここは、高級家具ばかりを取り揃えたホームセンター。周囲を見渡す限り、そこに『高級』という言葉を絶対に付け忘れてはいけない。一応糸佳の言わんとしてることは一理あり、わからんでもない。が、やや腑に落ちない点もあった。状況として、諸々辻褄が合わないのだ。
「ほら見てください優一くん! ここにある本棚、でかくて素敵じゃないですか?」
「ああ、素敵だな」
「こっちなんてほら、立派なソファとテーブルですよ!!」
「……ああ。とても高校生の小遣いで買えるものでもないけどな」
糸佳が指差した先の本棚にはおよそ十万円の値札が付いており、ソファとテーブルに至ってはセットで三十万円という値札が踊っていた。ごく一般の庶民感覚的には、この女子高生は一体何を仰っているのだろうと思われそうだが、忘れてはいけないのはこんな童女でも実は社長令嬢であるという事実ってとこだ。
いやいや、ただし今回の問題はそこではない。
「優一くん、見てください! あそこにはあんな立派なダブルベッドがあります!!」
「ああそうだな……じゃなくて、そんなものどうするつもりだ!?」
糸佳は何かを取り違えている。そう、それは今回の引っ越しについてだ。
「それはもちろん、イトカが引越し先で使うんですよ〜」
出た。いつもの『そんなことも気づかないんですか〜』と僕をおちょくるようなその顔。ただし今日に限ってはそんなの絶対に通用しない。
「なぁ糸佳。『ダブル』って意味、本当にわかっているのか?」
「もちろんです! 二人って意味ですよね?」
「ほお。……して、ここで言うところの『二人』の意味とは誰と誰のことだ?」
「そんなのもちろん決まってるじゃないですか〜」
すると糸佳は少しだけ顔を赤らめて、僕を見上げるような視線でこう言うんだ。
「イトカと優一くんの、二人で使うんです!」
だがしかし、僕にはその言葉の意味が一瞬わからなかった。
だから冷静になって再び考えてみる。……うん、やはり理解できない。できるわけない!!
「一体どうしたらそうなるんだ!??」
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