幼馴染ヒロインの大暴走

「だから、イトカの部屋にゆくゆくは優一くんも引っ越してきて、一緒に使うんですよ! 本当に、そんなこともわからないんですか〜?」

「わかってたまるか!!」


 それはもはや完全に兄と妹という次元を越えている。……いや、待て。僕と糸佳は元はと言えば幼馴染だ。それだったら……とかそう言うレベルの話でもないと思ってる。幼馴染の男女がダブルベッドで一緒に寝るとか、そんな話はどこかのラノベの世界だけで十分だ。もっとも、僕はそんな幼馴染至上主義的なラノベを読んだことはないし、そもそも幼馴染設定って大抵のラノベ作品の中では……いや、なんでもない。

 というより、今回の糸佳の引っ越しはそういう話だっただろうか?


「なぁ糸佳。確か糸佳は、文香さんと僕の親父の部屋に引っ越すだけだよな?」

「はいです。都内のマンションの3LDKのお部屋です。海まで見えて見晴らしいいんですよ!」

「だったらなぜそこに、ソファやテーブルが必要だったりするんだ?」


 本棚は糸佳の部屋用にということであれば、わからんでもない。そういう意味ではダブルベッドも同様、百歩ほど譲ればありだとも言い切れる。僕がどうとかいう話はひとまず置いといて、糸佳一人でダブルベッドを使う分には女子高生の衛生上的にも何ら問題ないはずだ。

 だがしかしだ。ソファとテーブルであれば、その部屋に住んでる文香さんと父龍太が既に使っているはずで、糸佳が引っ越すからといって改めて購入する必要なんてどこにもないはずだ。僕も糸佳の引越し先であるあの部屋には何度かお邪魔しているけど、二十畳ほどの広いリビングに巨大なソファが既に置いてあったことを記憶している。わざわざ糸佳専用のソファを用意するとか、そういう話であるはずもないのに。


「何を言ってるんですか優一くん」

「は? 一体僕の何を間違えているというのだ?」


 ところが糸佳は、僕の疑問など全く意に介さないつもりのようだ。相変わらずの上目遣いで僕を見つめながら、僕の浅はかな考えなど真っ向否定しようとしてくる。


「母さんは優一くんがいつ引っ越してきてもいいように、あの部屋のすぐ隣の部屋を買う予定なんです。ちょうど今空いているようですし」


 ……いや、やっぱり何言ってるのか意味がわからん。今日の糸佳は熱でもあるのか?


「おい。僕はそんな話、一ミリも聞いてないぞ?」

「だって、今言いましたです」


 あ、こいつ。開き直りやがった!


「前に優一くん、イトカに言いましたよね? いずれイトカたちは結婚して……」

「それはいつ、どこの世界の、糸佳と誰が結婚するという話だ?」

「もちろん、この世界のイトカと優一くんが、大学卒業と同時に結婚するんです!」

「ちょっと待て。そもそもその大学卒業とかいう話、急にどこから出てきた!?」

「そんなのもちろん、イトカの夢です! 世の男性というのは、女性の夢を叶えるために生まれてくるのですよ!」


 だめだ。頭がちっとも話についていけてない。なぜだ? 僕の頭がおかしいのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る