学園に現れた恐怖の幽霊、その正体

「って美歌。お前の方こそ大丈夫なのか?」

「うん。あたしは三十分ほど休ませてもらったから平気。それにどっちかというとあたし自身はサボり気味だったわけだし」

「それ、半分合点がいって、半分合点がいかない話だな」

「ほんとそれ。あたし自分でもそう思う……」


 美歌は笑いながらそう返していた。確かに僕らと違ってまだまだ元気は残ってそうだ。


 というのも今日我がクラスのお化け屋敷が好評だったのは、ほぼ美歌のせいだった。

 無表情、無愛想、そして美しい顔立ちの幽霊が、お化け屋敷にひょっこり現れる。その幽霊に出くわすと最初はまず真っ白い姿で身体が凍りつき、身動きが取れなくなったところに、か細く甲高い声が『うらめしや〜』と脳内につんと響いてくる。それをようやく五感が認識すると、最後に強烈な寒気に襲われるらしいのだ。

 そんな世にも恐ろしい噂がいつの間にか学校中に広まってしまったんだとか。


 その犯人こそが美歌だったり。……いや、今ここにいるガサツ系美歌の方ではなく、AIによって制御された美歌の方。その洗練された一連の動作や声は、他者である人間の感情を完全に弄んでいたりして。

 いやはや、実に困ったAIである。


「でもその幽霊姿で受付とか……それってありなのか?」

「う〜ん……あたしはあの子みたいに人を驚かすとか無理そうだし、だったら受付の方が多分合ってると思うよ」


 で、今や完全にバッテリー切れになってしまったのか、AIの美歌はどこかへ行ってしまったらしい。代わりに入れ替わったガサツ系美歌は、呑気に綿菓子を口にしながら休憩を取っていたようだ。

 まぁ美歌に受付を任せておけばどんな姿であれ大丈夫そうだ。それどころかどこかで見覚えのあるアイドル歌手が受付嬢となれば、それはそれで人が集まってくるかもしれない。……いや、これ以上このお化け屋敷に人が集まっても、結局のところ誰が喜ぶのだろうと思わないこともないがな。

 それにしてもその綿菓子、確かに美味しそうである。どのクラスで売ってるのだろうか? いやいや、綿菓子程度じゃ恐らくお腹は膨れないだろうし、それって実はただお腹を空かせているだけの間違えだよな、きっと。


「じゃあお言葉に甘えて、しばらく代わり頼むよ」

「うんわかった。……ほら、糸佳ちゃんも一緒に行くんでしょ?」

「……え。あ……うん。……はいです」


 あれ? なにか糸佳がいつもの糸佳っぽくないように思えたけど……気のせいか?

 ふと糸佳の方を見ると、いつの間にか僕と糸佳の間に、一メートルほどの距離ができていた。ついさっきまで僕の真横から威勢のよい言葉を怒鳴り散らしていたと思ったけど、今のその姿はどこかしゅんとしていて、ごく普通の女子高生っぽく見える。

 ……いやまぁ糸佳が女子高生なのはそうなんだけど、あるときは女子中学生とも思われかねないやや童顔なその顔立ち、そしてあるときはそれとは真逆で、名作曲家『ITO』として女子高生離れした才能を発揮して大人と真正面から張り合っているのも事実だ。そもそも糸佳は芸能事務所の社長令嬢なわけで、それがいつもの女子中学生モードでは全然納得いかないわけだけど。


 だけどここにいる糸佳は、そのどちらともどこか違っていて――

 僕はその違和感だけを感じていたけど、その正体までははっきりわからなかったんだ。

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