優一の選択肢

「確かに、茜の演技だってすごいと思うよ? でも、まだ真奈海には……」

「ユーイチ、本当にそう思ってるの?」

「こんなことで嘘ついてどうしろってゆうんだよ! 僕が真奈海を適当な言葉で励ましたところで、お前だったらそんな嘘、すぐに見抜いてくるだろ?」

「だったらユーイチは、今の言葉を茜の前でもちゃんと言える?」

「ああ、もちろん。言えるに決まってるだろ!」

「嘘だよ……。だってユーイチ、誰にでも優しいもん……」

「だから今の質問、僕はどうこたえるのが正解だったんだよ……?」


 真奈海は演技も得意だけど、嘘を見抜くのも得意な方だ。真実と演技の狭間の世界で、そういった感性を常日頃から備え付けているせいかもしれない。だから僕がどんな嘘をつこうと、真奈海はしっかり見破ってくる。だからこんなところでお世辞を言ったところで、真奈海に通用しない。

 そんなこと最初からわかりきっているのに、どうして真奈海は……。


「だったらさ……ユーイチは、女優のわたしと、アイドルのわたし。どっちが好き?」

「そ、そんなの……」


 ――どっちがいいかなんて、決められない。決められるわけない!

 だって僕は、どちらの春日瑠海も好きであることに違いないから。


 僕は、春日瑠海がどんな形であっても、大ファンであることに違いないんだ。


「…………そっか」

「え……?」


 僕がそれとなく言葉を濁していると、真奈海は小さく笑って、溜息とともにそんな言葉を吐き出した。何かを悟って、何かを悟れていないかのような、そんな顔で……

 ……いや、今の真奈海は完全に甘えている。そんな顔をしていることだけはわかった。


「今日もユーイチは、選んでくれないんだね?」

「今日もって……?」


 だけど……僕はまた、繰り返しているのだろうか……?


「いつになったらわたしは、ユーイチが求めるわたしに、なれるのかな?」

「真奈海……」


 そしてそんな尖った言葉が、僕の胸に突き刺さってくる。


「……な~んてね。こんなわたし、いくらなんでも卑怯だよね?」

「…………」


 それは、真奈海の不条理な我儘であることに、違いはない。


「いつもユーイチに委ねてしまって、いつも困らせてばかりで……」

「…………」


 だけど僕は一人の女子高生である真奈海を、いつも受け止めることができなくて――


「ごめんね、ユーイチ」

「いやだから、そんなこと言うなって……」


 僕はこうしてまた真奈海を、一人にさせてしまっているんだ……。


 真奈海が飲んでいたアイスコーヒーは、もうとっくに全ての氷が溶けている。喫茶店の窓ガラスが虫メガネのように、夏の猛烈な日差しをより強力な熱源へ変化させてるせいかもしれない。

 その光は反射することもなく、僕の左腕の皮膚をじんと焼いていたんだ。

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