ライブ打ち合わせ異常あり!
「社長。ライブのプログラムって、今から変えられるんですか?」
「そんなの余裕よ。むしろ少し時間が余っていたくらいだったから丁度よいわ」
「時間が余っていた? ……なるほど。社長、最初からそのつもりで」
「あ〜あ。こんなに可愛くない女子高生アイドル、ほんと嫌いだわ〜。失恋して、ますます調子づいてきたわね?」
「社長? 一言多い!!!」
真奈海さんと文香さんは、火花を散らしている。ただしその真奈海ちゃんの様子は、どこか可愛らしくも思えた。それにしても、恐らくの当事者であるあたしのことなど、全く眼中にはないようだ。
「あ、あの〜……ダンスとかあたし無理だし、そもそもド素人ですよ?」
そう小さな声で反発するのが精一杯だ。
「美歌さん、それは大丈夫よ。あの時のあの度胸があれば、何も問題ないわ!」
「あの時の……って、先日の動画ライブもいっぱいいっぱいだったんですけど!」
「それに美歌さんの歌は超一級品。プロと比較しても何も申し分ないもの」
そんなこと言われても……。あたしには真奈海さんが魅せている輝かしいオーラとか、そもそも微塵もかけらもない気がする。
「ちょっと待ってください! その話、イトカは納得いきません!!」
と、ここであたしにとっての救世主、糸佳ちゃんが話にストップをかける。
「糸佳? この話のどこに問題があるっていうのかしら?」
「問題大ありです! 真奈海ちゃんと母さんで勝手に話を進めないでください!!」
確かにあたしを置き去りにして、話を進めすぎだ。糸佳ちゃんの言うことに誤りはない。そこまであたしの気持ちを代弁してくれると、あたしとしても助かるわけだけど……
「美歌さんは未来ちゃんの曲じゃなくて、イトカの曲を歌うんですよ!!」
……が、糸佳ちゃんの言葉には、あたしの代弁なんてどこにもなかったようだ。
「そっか〜。せっかく美歌さんのデビューなのに、さすがに一曲だけというのは勿体ないよね。……社長、時間的に空いてるのは一曲分だけ?」
「う〜ん……調整してみないとまだわからないけど、二曲くらいならなんとかするわ」
「じゃ〜、決まりね! 美歌さんには二曲歌ってもらおう〜!!」
「やった〜!! それならイトカも全く異議なしです!!」
なにが決まりで、なにが異議なしだと言うのだろう……? どうやら糸佳ちゃんは救世主などではなく、あたしを奈落の底へ叩き落としてくれる小悪魔だったようだ。その証拠に、糸佳ちゃんの顔は先程より確実に上機嫌になっている。
あたしの気持ちなど、完全に置き去りにされているのは間違えない。ここまでの話の流れであたし以外に取り残されている人物を敢えて挙げるとすれば、管理人さんくらいか。あたしは少し気になって、管理人さんの顔を一瞥する。すると管理人さんは何も言わず、どこか哀れみの目で、あたしをじっと眺めているのみだった。
だからその痛々しい目であたしを見るのは止めろって言ってるの!!
「そ、そもそもライブとか……あたし、顔出しなんて……」
「別に美歌さんの顔ならノープロブレムだけど……体型は……」
文香さんはそう言いながら、あたしの全身を上から下まで一通りチェックする。その一瞬、あたしの胸の辺りで止まったように見えたけど……
「それでももしって言うなら、VTuberとしてライブに参加してみる?」
文香さんは優しい微笑を浮かべながら、そうあたしに聞いてきた。
……あの〜文香さん? それってやっぱしあたしの胸の大きさ見て言ってます?
「べ、別に……顔出しがなしでもと言うのでしたら……」
確かに、それなら実際のライブと言えど、先日の動画配信ライブとあまり変わらないかもしれない。もちろんダンスの練習をしなくてはいけないけど、曲数が少ないなら――
「それなら決定ね! 七夕ライブで
そしてこうもあっさり決定してしまうんだ。もっとも文香さんにとっては既定路線だったのかもしれないこのお話は、真奈海さんの地獄のようなダンスレッスンの始まりでもあったわけで……。
先月管理人さんが真奈海さんと一緒にVTuber制作する際に悲鳴あげてた気がしたけど、ようやく心の底からそれに同情することができたよ。真奈海さんにとって妥協という言葉は、ほぼ皆無に等しいんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます