第1話

高校に行かないと言っても、家に居ることがバレたら更に煩くなることは決まってる。

だからと行って、私服で家を出てもバレる。が、制服で街中をブラつけるわけもない。


さて、どうしたものか。

どうしたら高校に行くこともなく、更に両親からも煩く言われないかに頭を悩めせていると、机に置いてあるスマホがメッセージを受信した。


この受信音は姉ちゃんかな。


両親に姉と比較されながら生きてきているため、周りは姉妹の仲も良いものではないだろうなんて思われてるんだろうけど、実際そんなことない。

むしろ姉は私を溺愛していると言っても過言ではないと思う。

両親が褒めてくれない、認めてくれない分、姉が実家にいた頃はたくさん褒めてくれたし、勉強でつまずいている場所も返ってきたテストの答案用紙から気付いて教えてもらったりしてた。

でも、姉が高校進学を機に一人暮らしを始めてから私から連絡を取るのは月に一回程度になっていた。

さらに言えば、前回連絡したのは半年前だったような気さえする。


姉からのメッセージには『ましろ、おはよう。もし、今日学校休むのなら私服を持って制服でここに来て。』と“ここ”への案内地図だった。


何故、姉は私はが今日休む予定なのを知っているのだろうか。ちょっと怖い気もするが、休むのを辞める理由はないため姉には『姉ちゃん、おはよう。なんで今日休むってわかった?』と返すとすぐに返事がきた。


『勘かな。ましろが長期間連絡くれないときはだいたい何か抱えてるときだし。それに今回ほど間が空いたことないから相当だろうなと。だから気分転換にどうかなって』


『敵わないなぁ。あ、シルクハットだっけ。行くのはいいけど、何なの?』


『シルクハットはカフェだよ。私のバイト先』


『今日、姉ちゃん出勤?』


『10時からだけど、出勤日だよ。』


『じゃあ、それまで私はどうしたらいいのさ』


『なら、家にきて制服から私服に着替えて一緒にカフェ行く?』


『そうする。準備出来次第向う』


『了解』


姉とのやり取りを終え、スクールバック《スクバ》の中身から不要なものを出して代わりに私服を詰る。

壁に掛けてある制服に着替えて、髪を結い、校則に引っ掛からない程度のメイクをして、先程準備したスクバを持って自分の部屋を出る。


玄関へ向かう途中に一応“今から学校に行きます”という雰囲気をわからせるというよりカモフラージュするため母のいるリビングに顔を出す。

母に一言、行ってきますと言えば、まだ居たのという表情をしたため、足早に玄関に向かった。


ローファーを履き、私服に着替えた際の靴を袋に入れてからスクバに納め、家を出る。

今日帰ってくるかはわからないけど、ドアが閉まりきる前にもう一度「行ってきます」と声を上げた。


姉の家までは電車に1時間程乗り、そのあとバスで15分かかる。

今は7時、学生の通学時間が終わる9時頃までには姉の家についていないと最悪の場合警察などのお世話になってしまう。

小走りで駅へ向かい、ICカードの残高を確認して改札をくぐる。

私の住む街は都会ほど公共交通機関が発達しておらず、電車は時間2本のため次の電車まで15分ほどあるため、姉に駅で電車待ちという連絡を入れ、読み途中の本を開き暇をつぶすと、あっという間に電車の時刻になった。


通学時間帯のため、学生服姿の人をたくさん見かけるが、私の通う高校とは反対方向の電車なので同じ高校の学生を見ることはなかった。


それにしても、居心地の悪い車内。

こっち方面の電車に見たことない制服を来た私がいたら気になるのも頷けるが、もう少し気にせずいてもらいたいのだけど…。

周囲のざわめきや視線を遮るようにヘッドフォンをしてお気に入りの音楽をかけて、眼を閉じ眠るフリをした。




〖本日もご乗車ありがとうございます。間もなく○○〜、○○です。左側の扉が開きます。扉から離れてお待ちください。〗


はっ!眠るフリのはずがどうやら本当に寝てしまったらしい。危うく乗り過すところだった。

あぶないあぶない。


目的の駅で降りてバス停に向う。


バスは1分前に出たばっかとか…、次は10分後か。

お腹すいたし、コンビニないかな。


辺りを見回すと家族のコンビニが見えたため、おにぎりとお茶を買ってバス停で食べながらバスを待つ。


あ、ここのおにぎりおいしい。

でも家族のコンビニ、うちの近所にないんだよね…。

そもそもコンビニが一番近いところで車で20分、これコンビニですか?状態。

むしろ、24時間営業のスーパーのほうが近い。


コンビニで買った朝食を食べ終えた頃にバスが来たため、それに乗り込む。

姉の家の最寄で間違えずに降りれば、世間からの目を気にして動かなくてはいけない時間まで十分に時間に余裕はある。


最寄まで15分あるが、一応姉にはバスに乗った旨の連絡を入れてから、スマホをスクバの外ポケットに入れて窓の外へと意識を向ける。


いつもなら駅から姉の家まで、バス代がもったいないと歩くのだけど、今日はバスのためいつもより姉の家に近付くのが早く、最寄りのバス停留所に着き、バスを降りると姉が迎えに来てくれていた。


「姉ちゃん、おはよう。」


「ましろ、おはよう。いつもなら歩いてくるのに。」


「だって、9時半過ぎると周りの目が鬱陶しいと思って。」


「あ、そっか。制服だから。なら早く家行こう。」


バス停から5分ほど歩き、姉の家へ上る。


「9時45分には出るから、それまでは好きにしてていいよ。」


そう言われたため、姉に寝室を貸してもらって、制服から着替えをすまし、荷物をそのまま寝室に置かしてもらった。


「あ、私服は持って来てって言ったけど、普段使ってるリュックとか持って来た?」


「あ、忘れた。さすがに私服にスクバは駄目だよね。」


「やめたほうがいいね。明らかにどこかで着替えましたって言ってる風になるだろうし。なら、財布とか持ち歩くのに、このリュック使っていいよ。」


「あれ、これって姉ちゃんのお気にじゃなかったっけ?」


「そうだけど、今ましろに貸してあげられるのそれしかないからいいよ。それ使って。」


「そういうなら遠慮なく。ありがとう。」


「あ、朝御飯は食べた?」


「バス待ってる間にコンビニで買って食べたよ。」


「なら、私が作ったものだけど、デザートにいちごゼリー食べる?」


「食べる!お姉ちゃんが作ったいちごゼリーおいしいから好きだよ。今度作り方教えて。」


「いいよ。ましろ、いつまでくらいここにいる?」


「あ、迷惑掛けるわけにいかないし、夜には帰る。」


「でも、居心地悪いでしょ?私はいつまででもいてくれていいよ。てか、学校行かないならうちにいなよ。」


「え、でも。」


「はい、決定。ましろは今日からしばらくはうちの子です。」


姉は言い出したら止めることはほぼ不可能なので、大人しく従うしかないみたい。

でも服、今着てるやつしか持ってきてないんだけど、明日からどうすればいいのかな?

姉の服を借りるにしても身長差が約15センチ、私が着るとダボダボでせっかくの洋服の魅力がなくなってしまう。

しかし、取りに帰るには両親に見付かるというリスクが高すぎるし…。


なんて話しているうちに姉の出発時間になったため、カフェ・シルクハットへ向かうことになった。

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【不定期更新】カフェ・シルクハット 卯月あと @ato_uzuki

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