第16話 高級マンションに入るのは胃が痛い……

修正:お恥ずかしながらタイトルのつけ忘れをしていました……。十数分の間にご覧いただいた方々大変申し訳ありませんでした。

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「すみません。お待たせ致しました」

「……おや?お嬢さん。お待ちしてました。それじゃあ、出発致しますね」


 アパートについたのでケープを取りに入ってすぐタクシーに戻ってきたのだ。

 相も変わらず霜月さんは後部座席でぐっすりと眠っていた。その眠りはかなり深いようで多少の会話程度では起きそうになかった。


「はい、お願いします。今度はこちらまでお願いします」


 そういって今度は霜月さんの住むマンションの位置を提示する。


「はい、畏まりました。それで先程の話の続きなのですが……」


 そうして再び始まった運転手さんの一人語りを聞きながら外の景色をぼーっと眺めていると夜という事もあり、渋滞に巻き込まれるようなこともなくあっさりと霜月さんの家についた。

 マンション前にタクシーを止めてもらいそこで料金を支払い、霜月さんを背負ってタクシーを降りる。


「ありがとうございました。お話面白かったです」

「いえいえ、お耳汚しをお恥ずかしい……。ああ、そうだ。ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


 そう言い残すと運転手さんはにこりと俺の方を向き笑い、車内から頭を下げた後に車を出した。俺もそれを見届けた後、マンションに向き直る。

 霜月さんが住むマンションはいかにも高級そうなマンションで、改めて霜月さんはいい所の御令嬢なんだなと思う。何度か踏み入れたことはあるが緊張するしやっぱり行きたくないなぁ。


 だが、そうは言っても結局行かないといけないのは分かっているのでため息を一つ吐いてマンションの入り口に向かう。

 夜にも関わらず入り口には受付の人がいた。ただまあ、こちらには霜月さんがいるし、俺自身が入り口のロックの番号を知っているので彼女に用はない。


 最初に呼び出しボタンを押し、続いて♯24629と打つとガチャリと自動でロックが外れる音がする。


「開きましたね」


 片手でしっかり背中の霜月さんを支えながら、空けた片手でロックを解除した扉を開ける。するとしっかりと扉は開き何事もなく通れた。

 扉から手を離すと緩やかに扉は締まっていきガチャリとまたロックがかかる。


 流石に霜月さんが住んでいる20階まで階段で行きたくはないのでエレベーターを使うことにする。エレベーターに乗り込むと閉めるのボタンを連打した後に20階を押す。そうして、マンションのエレベーターにしては異常に広いエレベーターに居心地が悪くなってきたころにチーンという到着音がなった。


 無言で階に下りると目の前には一つの扉。そして、廊下にある扉は一つだけ。……まぁ、つまりそういう事である。

 マンションの一フロア丸々を使っているわけだ。二人暮らしには広すぎるだろうに……。

 霜月さんが好きで住んでいるわけではないというのも知っているので、俺から何かを言う事はないが、多少心の中で呆れても怒られないだろう。


 ここまで来て怖気づく理由もないので入り口のインターフォンを鳴らす。

 鳴らすと澄んだ音でピンポーンという音がなった。ピンポーンという音にすら気品があるとは……。


『あ、はい。霜月です。どなた様でしょうか?』


 インターフォンから聞こえてくる音もクリアである。


「初めまして。酔いつぶれてしまったお姉さんを運んできた者なのですが……」

『え、お姉様がですか?……あの、すみません。失礼ですがお姉様の様子を見せて頂くことは可能ですか?』


 指示に従い横を向き背負っている霜月さんの顔がインターフォンから見えるようにする。

 ……ああ、そうか。ここまで人が来ることはそうそうない。来るのは受付の人か俺くらいなものだった。荷物などが届いた場合は全て受付で一度チェックが入った後、受付の人が届けてくれるので本当にここまで人が来ることは少ないのだ。

 どうやら、妹さんを無駄に警戒させてしまったのかもしれない。


「あ~……えっと、大変申し訳ございません。無駄に警戒させてしまいましたね。私はここで帰らせて頂きますね。妹さんには申し訳ございませんがお姉さんを入り口に置いて帰らせて頂いても大丈夫でしょうか?」

『え、えっと、あの、はい!そちらで大丈夫で御座います!』


 よかった。それでいいらしい。以前会った彼女に霜月さんが運べるのかはいささか怪しいところだが、部屋まで運ぶために警戒されて通報などされるよりはよっぽどいい。運べなかったとしても受付の人に手伝ってもらえれば運ぶ事は可能だろう。


「一人で運べない場合は受付の方をお頼りくださいね。ああ、もし他にも心配があるのでしたらそちらも受付の方にお伝えくだされば対応して下さると思いますよ。それでは、私はこれで。おやすみなさい」

『あ、はい。おやすみなさいませ』


 霜月さんを扉から少し離れた位置の壁にもたれかけさせて、インターフォンに向けて一礼した後、エレベーターに戻った。


「ふぅ~……」


 胸に手を当てて一息つく。文字通り重荷が肩から降りた気分である。


 あ、重荷とか言ったら霜月さんに失礼だな。ばれたら殺されるぞ。口に出さなくてよかった……。


 そんな馬鹿な事を考えながら、俺は軽い足取りで帰路につくのだった。行きと違い、徒歩での移動だがケープもあるのでとても気楽な帰り道である。

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何故か気づけば白髪美人お姉さんになってしまったので、どうしようか…… 高叶 @mishiro_kuroyuki

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