第15話 心労をかけ過ぎたらしい……

※以前、三芳は自宅の事をマンションと呼んでいましたが文中で分かりやすくするため、アパートと差別化させて頂きました。

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――てぃろてぃろてぃろ~ん♪


 ファミレスのドアを開けると店内に軽快な入店音が響く。

 先程と変わらず店員さんの姿は無かったので素早く入店してしまい、霜月さんの待つ席へと急ぐ。


「霜月さんすみません。お待たせ致しま、し……た?」


 約30分ぶりに席へ戻るとそこにはぐっすり眠る霜月さんの姿。

 ……困ったなぁ。どうするかなぁ~。面倒くさいなぁ……。

 思わず首の裏をかくという、まったくスノウらしくない行動をとってしまう程度には困った。


 そうして、どうしたものかと悩んでいるとふとテーブルの上に置かれたあるものに気がつく。

 テーブルの上には何故かジョッキが置かれていた。普段、霜月さんはお酒を嗜まない。この人がお酒を飲むのは本当に機嫌がいい時か、もしくはとてもショックな出来事があったときか。


「……はぁ。本当に何やってるんですか……」


 間違いなく俺が原因だろう。

 俺が退職した事で溜まりに溜まったストレスで飲みに走ったのか。はたまた雪姫が女子トイレにいないのに気づいてしまったか……。それともその両方か。どちらにせよ俺の所為には変わりない。

 あまり彼女と交流を持つのは好ましくないという事は分かっているのに。困る、面倒くさいなどと言いつつ、結局、何だかんだ理由をつけてどうしても切り離せないでいる自分に嘆息する。


 さて、如何したものだろう。

 霜月さんを置き去りにして帰る選択肢は正直あってないようなものだし、家まで送る?霜月さんの住んでいるマンションは把握してるから送ることは可能だ。何だったら部屋番号にマンション入り口の開錠番号まで教えてもらっているので霜月さんと一緒に住んでいる妹さんに玄関の鍵さへ開けてもらえば部屋まで送り届けることができる。

 霜月さんが住んでいるマンションの詳細な部屋の番号まで知っていたのは、理由として弱いけどまた三芳から聞いていたで通せばいいだろう。スノウはこの容姿だし困った事があれば霜月さんを頼るように言っていてもおかしくない。多分。

 霜月さんは頼られるのに弱いし、意外に抜けているから多分この言い訳で十分通る筈。多分。


 ぐっすり眠る霜月さんをテーブルに残し、伝票を持ってカウンターに向かう。相変わらずカウンターは無人なのでピンポーン♪と呼び出し音を鳴らす。


「お待たせ致しました~!」

「お会計お願いします」

「はい、畏まりました~。伝票お預かりいたしますね。……合計9点で3,680円になります!」


 小銭が足りないのは分かっているので4,000円を支払い、お釣りをもらう。

 そのまま、一度外に出てタクシーを呼んだ。

 今のこの体なら出来なくはないどころか容易くできるが、流石に酔いつぶれた霜月さんを担いでここから車でも数十分は掛かる霜月さん宅に向かいたくはない。その道中で沢山の人とすれ違うのも間違いないだろうし。タクシーの運転手に見られるのくらいは流石にあきらめた。もう、仕方ない。ああ、でも、行きに俺の家に寄ってケープくらいは取りに行ってもいいかもしれない。それでだいぶ動きやすくなるはずだ。


 数分するとタクシーがファミレスの前に到着する。

 俺はタクシーの到着を確認すると霜月さんを担ぎ上げタクシーに乗り込んだ。


「……どこまで行きましょう?」

「すみません。まず、ココのアパートまで送っていただいてもいいですか」

「はい、畏まりました」


 うちの場所を伝えると運転手さんがタクシーをうちに向けて走らせる。

 走り出し、少しのが空いた後、自然と運転手さんが俺に話しかけてくる。三芳の頃は意外と運転手さんとの会話は好きだったのだが、スノウになってからは会話一つ一つに気を付けないと行けなくなったので正直、辛い。外来語禁止ゲームのようなひやひや感がある。


「いやぁ、それにしてもお嬢さん二人揃って別嬪さんですねぇ」

「あはは……ありがとうございます」

「ところでお嬢さんは外国の方ですか?日本語がとても堪能でいらっしゃるようですが……」

「ええ、はい。まあ。そんな感じです」


 バックミラー越しでしか見えないだろうが愛想笑いを返す。


「日本には観光で?」

「いえ、日本には遠縁の親戚を頼りにきたんです」

「ああ、日本人の親戚さんがいらっしゃったんですね。日本語はその親戚さんに?」

「はい、あ、いいえ。子供の頃から日本語で会話する機会が多かったので自然とですね。こんな見た目ですが英語などはそれ程得意ではないんですよ?」


 海外で日本語を使う環境って一体どんな場所だよという感じだが、英語を話してみて下さいよなどといわれても困るので仕方ない。こんな見た目だが恥ずかしながら俺は外国語はあんまり得意じゃないのだから。


「ええっ、そうなんですね」

「あははぁ、変な話ですよね?」

「いえいえ、人には色々ありますしそんな人も当然いますよ。私がこれまで話した人の中には、外見はイケメンな外国人俳優さんなのに生粋の日本生まれで歌舞伎役者なんて人もいらっしゃいましたから」

「まあ。世の中には変わった人が沢山いるものですね」

「そうですね。他にも……」


 よし、何とかうまく話題誘導して運転手さん自身の話を主体に切り替える事ができた。これで、当分凌ぐことが出来るだろう。


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