第24話 何でなったか

「では、なんで松原さんは司書をなさっているんですか?」


 先程から時間が経ち、料理を食べ終え、数分が経った頃、お酒が入った千鶴さんはそんなことを言ってくる。

 俺はと言うと、先程からお酒の飲む量は増えてはおらず、店主に頼んだお茶を飲んでいた。酒から逃げたんて言わない。戦略的撤退。


「なんでって………なんでだろうな? 親父さん知ってる?」

「お前が知らないんなら知らねぇよ」

「そうか」


 何でやっている、か。

 正直言うと、何でやっているんだろ。もう、ここに居た司書でいるって意味がないのに、何でいるんだろうな。

 【友人】に誘われて司書になった。

 俺自身の意志じゃなかった。

 元々、夢なんて無かった。

 将来、好きなことして生きれればいいかなと、最低的な願いがあるだけ。

 どこに行っても俺自身を満足しない。飽き性の一途だから。

 そんな使えないイチモツには本当に無駄な人生だと思う。

 あぁ、けど、


「え?」

「友人に誘われてこの仕事に就いたけど、本当に何がしたいとか分からないよ? けど、本は好き。読むのも書くのも」

「書かれるんですね」

「えぇ、けどほんの数文作るのに、一日かかると言うのがざら。飽き性には何かを続けるという事がどうもできない」

「ではなんで、司書を?」

「………友人の為かな?」

「え?」


 そう、友人の為。

 勝手に俺をこの世界に引き込んだ奴がいて、勝手に俺の前から消えて、勝手に約束を取りつけた奴の為。


「親父さん、酒まだある?」

「あぁ、あるが………オメェ、強くねぇだろ」

「いいよ。語るには、少々、酔わなきゃいけないから………」

「………そうか」


 カチャン、

 店主がそう言うと、置いてあった酒を出して置いてあったコップにへと注ぐ。

 注ぎ終えると、俺は何も言わずコップに口をつけ酒を飲み始める。


「友人いたんだ。俺とそう変わらない友人。ただ俺のことを勝手に引っ張って行ってこっちの世界に入り込ませた友人馬鹿が」

「そうなんですか?」

「あぁ、そういや居たな。そんな奴」

「そいつがよ、大層大きな夢抱えてこっちに入ったもんだから、当然、社会からは変な目で見られてよ。俺もそんな視線を受けたんですよ」

「………」

「そしてね、こっちに入ってもなお、俺のことを引っ張って行って仕事をこなしていくんですわ」


 今でも鮮明に覚えている。

 あの出来事を、あのせなかを。


「助けたい、救いたい、守りたい、そんな大層な夢や願望を抱くもんだから、先に死んだりのけ者にされたりするけど、そいつの夢は物すんごく大きくてさ眩しかったんだよ。だからさ、のけ者にされても馬鹿にされても、けろっていていたんだ」


 明るくて、眩しく、皆仲良くする仲介役を担っていた。

 人癖二癖があるというものではないほどの集団も彼女の前にたてばあっという間に収まりがついていたし、本当にすごかった。


「〈魔書〉を救いたいなんか言って、必死にあちこち走り回っていたよ」

「!!?」

「そんなんだから、もっと人に嫌われる。上層部からも案外、目の敵にされていたんじゃないかな?」


 あぁ、見えて上層部も腐っていたからな。

 まともな上層部なんて指で数えるほどだし、本当に嫌だね。


「そんな時だよ。ある事件でさ、俺に言いやがったんだ。〈魔書〉を救って、〈魔書〉に苦しんでいる奴を助けて、なんてさ。そんな事を言うもんだから………やっぱなんでもないっすわ」


 駄目だ。酒が回って変なことまで口走ってしまう。

 歳を取る度に、酒が美味しくなる、と言われたが全く美味しく感じないし良いとも思えない。


「それが約束ですわ」

「………その方はどうなったんですか?」


 千鶴さんはそう言いながら俺のことを見てくる。

 けれども、その瞳は何も言わなくとも何が起きたのか分かったような瞳をしていた。


「さぁ、どうなったんでしょう? 想像してみたらいいんじゃないんですかね?」


 そして俺は千鶴さんのことを意地悪をするように顔をにやりと笑いつけると、再びコップの中にある酒を飲み始める。

 コップの中にある透明な酒は、喉を焼ける程、熱く、苦い。

 喉を通すたび、熱い感覚が走り、胃の中で熱い感覚が入る込むと、溶ける様に消える。

 それと同じように、過去にあった出来事を、


 あぁ、本当に酒は《嫌いだ》。

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ノー・タイトル・ブックス~狂気狂乱の読書会いわば本を焚くべし~(打ち切り) 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami

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