決着

「馬鹿な……」


 サイガは俺、いや、俺達の渾身の射撃を受けて地面に倒れた。試合終了を伝えるかのように、彼の体が青い光で包まれる。


「『勝ったぁー!!』」


 俺達は喜びのあまり、声を上げた。遂に、狂天バーグを倒したのだ。これで、全部終わったんだな。


「やったな、栄華。怪我は大丈夫か?」


 アクノが木から降り、声をかける。


「ああ、なんとか動けるよ。俺、お前が陰でそんな努力してきたの知らなくて。さっきまで使い倒してすまなかった」


 俺が答えると、彼はきょとんとした顔を見せた。


「何を言っているんだ、お前。そもそもお前の作戦に納得してなかったら黙って従ってなどいない。みんなお前を信頼してついてきたんだ。なのに当の本人にそう言われては、誰を信じればよいというのだ」


「……ありがとう。……さてと」


「くそっ……あっ、返せっ!」


 悔しさを浮かべるサイガの前に俺は立ち、銃を奪い取る。当然だ。こんな危険なもの、持たせてはおけない。


「貴様ら、勝った気になっているようだが、まだ俺は負けてないんだよ」


「何?」


「スキル、管理者ディール発動!」


 サイガは手を天にかざし、能力を発動させた。空より降り注ぐ光が彼を覆い、周囲にある俺たちの目に眩い光線が入ってくる。


「くっ……」


「やった……やったぞ! これで俺は無敵だぁ!」


 光に包まれたサイガは立ち上がり、勝ち誇ったような表情でこちらを見つめている。何をしたんだ、こいつ。無敵……だと?


「これは使うと確実に周りにバレるから使わなかったが、もう関係ねぇ。俺のスキル、管理者ディールで脱落を無効化した。もう俺に勝てる者は誰もいない! さぁ、思う存分いたぶってやるぜ、へへへ……」


 なんだそれ。まさにチートじゃないか。もう俺達には戦える力が残っていない。

 打つ手がなくなってしまった。


「……そうか。栄華、少しその冷凍銃を貸してくれないか」


「ああ、いいけど……どうするんだ?」


 アクノは俺から銃を受け取ると、俺の質問には応じず、ゆっくりとサイガへと近づいていく。


「貴様何を……まさか」


「そのまさかだ」


 銃口をサイガに向け、引き金を引いたのだ。氷の弾丸はドリルのように彼の膝を貫通。奴の足からは血が吹き出し、その場に膝をつく。


「ぐぁぁぁぁっ!! お前、自分が何をしているか分かってるのかぁぁ?!」


「分かってるさ。こんな代物を使うくらいなんだ。当然、覚悟はできてるんだろう?」


「…………」


 アクノがその言葉を発した瞬間、さっきまで笑顔だった彼の表情が恐怖に変わった。


 あの銃を、躊躇なく人に向けて撃つとは。こいつが本当に味方でよかったと思う瞬間だった。


「次はない。今度はお前の脳天を破壊する。それが嫌なら、早々に負けを認めるんだな」


「……くそぉっ!!」


『降参が選ばれました。これより、転送を開始します』


 俺達の周りを青い光が取り囲み、試合は収束を迎えた。これで、奪われていた力も戻るだろう。一見落着だ。


 ……あ、それにしても、異世界に病院とかあるんだろうか。はっきり言ってものすごく痛いから、なんとかしてほしいんだけど。






 俺は転送されて間もなく、医療室のような場所に移動し、治療を受けた。異世界の技術というものはすごいもので、あれだけの傷が一晩で完治した。


 ぜひ、現実世界にもその医療を教えてほしいものだ。


 後から聞いた話によると、サイガはあの後、危険な武器を使用したことで水鉄砲合戦を出禁になったらしい。まぁ、当然だよな。


 今日は、復帰してから最初の試合だ。一日経って、腕が鈍ってないといいけどな。


「遅いぞ、栄華。遅刻だ」


「ああ、悪い悪い」


「全く、どいつもこいつも……今日はレイとコアとの試合だというのに」


「え? そうなのか?」


 アクノは見ろと言わんばかりにある方向を指差す。俺が差された場所を見るとそこには、二人の少女がいた。


「よぉ、久しぶりだな」


「こんにちは」


 相変わらずだ。彼女達はサイガの元から離れて、二人でやっているらしい。もう一人追加すればと思ったが、二人でやった方が彼女達は伸びるだろう。何より、元気そうでよかった。


「……ちょっとコア、どこいくの?」


 レイが呼び止める間もなく、コアは俺の元に近づき、笑顔で胸部に拳を置く。


「栄華。私の……好敵手ライバル。今日は、私が勝ちます。覚悟しておいてください」


「ああ。こいよ。また相手になってやる」


 コアはあれから、少し変わった。冷徹だった性格から角がとれ、少し積極的になっている。


 彼女が今日初めて見せた笑みは、あの試合で俺をライバルと認めた証なのだろう。


「ったく、やっと来たか。遅いぞ」


 アクノが見ている方向に、白と黒の服に身を包んだ、一人の女性が現れた。こちらを向いて、笑顔で手を振っている。


「エレナ!」


 迎えに行くと、彼女は勢いよく俺を抱きしめた。痛い痛い、何だいきなり。病み上がりなんだからもうちょっと優しくしてくれ。


「遅れてすみません栄華さん。今まで本当にありがとうございました。私、言葉喋れてますよね?」


 彼女の優しくも穏やかな声が、俺の全身を包み込む。よかった。しっかり話せるようになってるな。もうこれで、機械だけの会話もおさらばだ。


「うん。ちゃんと聞こえてるよ。本当に……よかった……」


「何をいちゃついているんだお前ら。約束の時間はとっくに過ぎてるんだ。さっさと試合を始めるぞ」


 おっと、先方を待たせているんだった。早く始めないとな。


「よし、エレナ。準備はいいか?」


「はいっ!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Q:FPSゲーマーの俺が異世界で水鉄砲合戦したらどうなりますか? A:相手は氏にます  剣とペン @swordandpen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ