第103話 テレビが完成したの。

 世界樹の島から戻ったレイニィは、暇があれば自室に引き篭りテレビの作成に明け暮れていた。

 そんな生活が三カ月も続いているため、家族はみんなレイニィを心配していた。


「レイニィ、今日は何をする予定だい?」

 朝食を食べながら父親のゲイルがレイニィに聞いた。

「今日も部屋で作業の続きをするの」


「ここ最近ずっとそればかりじゃない。たまにはお外で遊んだ方がいいんじゃない?」

「お外には毎日気象観測のために出てるの」

 母親のウインディは、レイニィが子供なのに遊んでいないことに心配して言うが、レイニィは、外には出ていると気にも留めない。


「一緒に狩に行かないか? 楽しいぞ!」

「今は必要な素材は間にあってるの」

 兄のドライが狩に誘うが、レイニィは全くなびかない。


「ドライ、女の子を誘うならもっと洒落た所にすべきだぞ」

「洒落た所? じゃあ、クール兄さんならどこに誘うのさ!」


「まあ、見ていろ」

 クールは自信満々に、かまわず朝食を食べているレイニィに声をかける。


「レイニィ、街のカフェで新作のスィーツが人気らしいぞ。一緒に行こうじゃないか」

「テイクアウトで、おみやげ、よろしくなの」


「え、や、そうじゃなくて、一緒にカフェに……」

「おみやげ、よろしくなの」


「そんな……」

 まったく相手にされず、見事な玉砕である。


「は、は、は。クール兄さん、ドンマイ!」

 ドライは笑いながら、落ち込むクールの肩を叩く。


「ドライ……」

 クールはドライを睨み返した。


「レイニィ、モノ作りが楽しいのはわかるけど、根を詰めすぎては駄目よ」

「わかってるの。適度の休憩はしてるの」

 ミスティは自分もモノ作りに集中すると時間を忘れてしまうので、それを踏まえて注意にとどめる。


「レイニィ様が無理をなさらないように注意しておりますからご安心ください」

 レイニィの後ろに控えるスノウィが、心配無用と告げた。


「レイニィ、それでテレビは後どれくらいでできそうなんだ」

「このままいけば、後、二、三日なの」


 みんながレイニィを心配するなか、エルダは未知のテレビに興味津々である。

 レイニィから、動く絵を映し出す装置だと説明を受けていたが、本当にそんな物ができるのか半信半疑であった。


 それはレイニィも同じであった。いくら現代日本の知識があるといっても、テレビの仕組みまで詳しくはない。

 レイニィにわかることといえば。

 カメラにはレンズがあって、それで集めた光を電気信号に変えていること。

 こちらでは、電気が無いから、代わりに魔力を使う。つまり、光を魔力信号に変える。

 これには、新しく発明した光魔素子を使う。

 魔力信号は導線を使ってモニターに流し、モニターの発光体を光らせる。

 それだけだ。


 テレビの仕組みを詳しく知らないレイニィは、当然、同期信号やフレームや走査線やインターレースやプログレッシブなんかわからない。

 わからないから、カメラ側とモニター側、一対一で直接繋いでやればいだろうと考えた。


 お陰で、画素数と同じだけの導線を繋ぐことになり、カメラとモニターを繋ぐケーブルが、とんでもない太さになったが、それでもなんとかなった。


 ただ、ひたすら、何万もの導線を繋いでいく作業を繰り返すことになったが、だが、これは時間がかかるが、いつかは終わる。

 そう、後、二、三日で終わるのだ。


 レイニィは完成が楽しみで仕方がなかった。


 そして、二日後の夕方、レイニィは、全ての導線を繋ぎ終わった。


「やった! 終わったの。完成なの!」

「おめでとうございます。レイニィ様」

「遂に完成か! 早く動かしてみてくれ」


「ではいくの! スイッチオンなの!」


 レイニィがスイッチを押すと、モニターにカメラの前に置かれたテストパターンが映し出された。

 ちなみに、レイニィが開発したテレビは、白黒でなく、最初からカラーだ。


 光魔素子の前に、三列列ごとに細長い小型のプリズムを付けてRGBの三色に分けたものを光魔素子で受けてRGB三色の魔力信号に変えている。

 それでモニターのRGB三色の発光体を光らせている。

 拡大してみると、三色の縞模様ということだ。


「映ったの」

「移りましたね」

「おお! だが動いてないぞ?」


「そりゃあ、テストパターンは動いてないから当然なの」

「ああ、そりゃあそうか」

「レイニィ様、カメラの前で動いてみてください」


「あたしなの?」

「初めに映るのはレイニィ様がいいと思います」

「そうだな」


「それじゃあ、お言葉に甘えるの」


 レイニィはテレビカメラの前に移動する。

 すると、モニターにレイニィが映し出された。


「レイニィ様が映ってます」

「何か動いてみろ」

「これでいいの?」


 レイニィはテレビカメラの前でラジオ体操を始めた。


「レイニィ様が動いてます」

「おおー! 動いてる。動いてる!」


「大成功なの!」


 これで、お天気キャスターにまた一歩近づいたと、レイニィは喜びの声を上げたのだった。


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