第102話 テレビを作るの。

 世界樹の島から帰って来たレイニィは家族への挨拶もそこそこに、自室に篭って何かを始めた。


「レイニィ様、戻ったばかりでお疲れではないのですか? 少しのんびりされてはいかがですか?」

 スノウィが心配してレイニィに声をかける。


「大丈夫なの。のんびりするより、今は一刻も早くテレビを作りたいの!」

 レイニィは、女神様の加護である自己再生により疲れ知らずだ。


「そうですか、無理なさらないでくださいね」

「わかってるの」


「ところで、テレビとはなんですか?」

「そうだな、私も聞いたことがないぞ!」

「エルダ先生もいたの?」

 慌ただしく部屋に戻ったレイニィを見て、何かあるとエルダもレイニィの部屋についてきていた。


「いたとも。それで、テレビとはなんだ」

「んーん。簡単に言うと、望遠鏡のような物で覗いて見たものを、離れた場所で動く絵として見られる物なの」


「動く絵? 絵が動くのか!」

「上手くいけばそうなの」

「それは凄いですね」

 エルダはビックリして、スノウィは感心している。


「どうやって作るんだ?」

「スライムによる発光体と世界樹で手に入れた光魔木を使うの」


「光を魔力に換えるアレだな」

「そうなの。その二つをミスリルの導線で繋ぐの」


「光魔木と発光体を導線で繋ぐのだな」

「そうすると、光魔木に光を当てれば発光体が光るの」


「スライムの発光体は魔力を流せば光るのだから、そうすれば光るだろうが、それがどう動く絵になるのだ?」

「それをいくつも並べて重ねるの」


「点描ということか……」

「点描?」

 スノウィは点描を知らないようだ。


「点で書かれた絵のことだ」

「その通りなの」


「なるほど、理屈はわかったが上手くいくのか?」

「やってみなければわからないの」


 実際レイニィにしても、テレビの仕組みを詳しく知っているわけではなく、ちゃんと映る物ができるかは自信がなかった。

 それでも「お天気キャスター」を目指しているレイニィにとっては、テレビは必要不可欠な物であった。

 レイニィにとって「お天気キャスター」はテレビに映ってこそ「お天気キャスター」なのである。

 天気予報ができるだけでは納得がいかなかったのだ。


 もちろんこの世界にテレビなどというものはない。そのためテレビが発明されるまで待つか、自分で作るしかなかった。

 この世界の技術進歩からしたら、テレビが発明されるのはいつになるやらわからなかった。

 もしかすると、死ぬまでに発明されないかもしれないと思ったレイニィは、自分で作ろうと考えていたが、それにしても簡単なことではない。


 今回、テレビの作成に取り組んだのは、世界樹で手に入れた光を魔力に換える性質がある植物、光魔木を見つけたことが大きかった。


「早速やってみるの」

「そうだな」

「手伝います」


 レイニィは、光魔木、発光体、導線を用意すると[光魔木=導線=発光体]のように繋いでみた。


「光らないの……」

 レイニィが気落ちした声を出す。


「いや、よく見ろ。僅かに光っている」

「えっ! 本当なの?」

 エルダに言われてレイニィは発光体を凝視する。


「本当なの。だけど、これじゃあ光方が弱すぎるの」

「うーむ。光魔木から出る魔力を強める必要があるな」


「光魔木を大きい物にしたらどうでしょう?」

 スノウィが小さく手を上げて発言した。


「そうすれば確かに魔力は強くなるだろうが……」

「それは駄目なの!」


「何故ですか?」

「光魔木を大きくしたら、機械全体が大きくなり過ぎるの」


 光魔木の大きさを大きくすれば、魔力の発生量が増え、発光体を発光させることはできるが、それだと、カメラが屋敷ほどの大きさになってしまう。

 太陽光発電パネルを使って、テレビカメラを作るようなものだ。


「そうですか……」

 スノウィは折角出した案が役に立たず残念そうだ。


「そうだ、光魔木全部を使うから大きくなってしまうの。必要な部分だけを取り出して固めればいいの」

「それは名案だな。発光体もスライムから必要な発光素を取り出して作っているわけだし、同じ方法でどうにかなるだろう」


 当初、スライムをそのまま使っていた照明装置であったが、エルダが研究して、発光に必要な発光素だけを抽出し、発光体を作るようになっていた。


「それじゃあ、先生、お願いするの」

「まかせろ!」


 エルダは、光魔木から「光魔素」を抽出し、それを使って「光魔素子」を作った。


 レイニィは出来上がった光魔素子を使って実験を再開した。


 光魔木の代わりに光魔素子を導線で発光体と繋ぐ。


「これでどうなの?」

「レイニィ様、さっきより随分明るいですよ」

 スノウィが嬉しそうに声を上げる。

 だが、まだレイニィは不満のようだ。

「んーん。さっきよりはいいけど、まだまだなの」


「これでもまだ足りないか。それなら、他の方法を考えなければならないな」

「そうなの……」


 三人で頭を悩ませる。


(こんなとき、日本ではどうしたっけ?)

 レイニィは日本のテレビを思い出す。だが、その内部構造などわかるはずもない。

 だが、何か一つ肝心なことを忘れている気がする。


「あっ! そうだ。コンセントなの!」

「どうしたレイニィ?」


「外から魔力を補ってやればいいの」

「ああ、そうか。光魔素に魔力を込めればいいんだな」


「でも、それですと光ったままにならないでしょうか?」

「スノウィの言うことももっともなの。試してみるしかないの」


 レイニィは光魔素子に指を当て魔力を流す。

 すると発光体は明るく光った。


「十分に明るくなったの」

「後は、光を遮ったら消えればいいんだな?」


 エルダが光魔素子に手をかざし光を遮る。

 するとどうだろう。発光体は光らなくなった。


 エルダは手をかざしたり退けたりを繰り返す。

 その度に、発光体は点滅を繰り返す。


「やったの!」


 レイニィはテレビ作成に向け、第一歩を踏み出したのだった。


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