第88話 火砕流なの。

 全員が熱気球に乗り切れずに悩んでいたところで、火山が噴火し、火砕流が集落を飲み込もうと迫ってきていた。

 このままでは全員が帰らぬ人となってしまう。


 あれこれ考えている暇はない。

 レイニィは咄嗟にウォーミィを抱えると魔法を使って熱気球の上に飛び乗った。

 そう。鮨詰め状態になった籠にではなく、気球の風船の上に、である。


「緊急浮上なの!!」


 定員を遥かに超えて乗り込んでいるため、熱による浮力だけでは飛び立てないと判断したレイニィは、魔力を使って強制的に気球を浮上させた。


「お姉神様。よかったです。もう駄目かと思いました」

「ウォーミィ、気球の上は不安定だから落ちないように気を付けるの」

「はい」


 ウォーミィは、また、レイニィにしがみ付いた。

 今度はレイニィ以外にしがみ付けるところはない。

 レイニィは何も言わずにその状態を受け入れたのだった。


 無事に浮上して、これなら火砕流もやり過ごせるだろうと安心していると、足元から声が聞こえて来た。下の籠に乗っている住民達が何やら話しているようだ。


「ああ。俺の家が……。建てたばかりだったのに」

「私のコレクションが」

「両親の形見が」

「ポチー。ポチー」


 住民の殆どが大切な物を集落に残したままなのだ。中にはペットを残してきた子供もいるようだ。

 集落からは「ワンワン」と犬の鳴き声も聞こえる。

 レイニィは、いたたまれない気持ちで迫りくる火砕流を見た。

 ウォーミィも目を伏せている。


 何とか火砕流を食い止める方法はないだろうか?

 レイニィは必死に考え始める。

 火砕流が村を飲み込むまで殆ど時間がない。


「水を掛けて冷やしたらどうだろう? いや、逆に水蒸気爆発を起こすだけか……。なら、火砕流自体の温度を下げる? それでも既に迫って来た土石流は止められないか――。何かよい方法はないか!」


 思わず考えていることが口に出ていた。


「レイニィお姉神様――」


 ウォーミィは目を上げ、懇願するようにレイニィを見つめた。


「こうなれば、目には目を、歯には歯を、なの。火砕流には火砕流をぶつけてやるの」


 駄目で元々。

 やらないよりはいいだろうと、開き直って、レイニィは魔力を全力で込める。

 そう、全力で、自重なしに。

 そして魔法を発動した。


「火砕流。逆流!」


 集落周辺の溶岩や火山灰を集めて、魔法で高温のガスと混ぜ合わせて山肌を火口に向けて逆流させる。

 その規模は迫り来る火砕流の倍以上。

 レイニィが作った火砕流が、迫り来る火砕流を飲み込み、そのまま火口まで逆流していく。


「おぉー!」


 気球の下から歓声が上がる。


「お姉神様、やりましたね」

「安心するのは早いの。一時凌ぎでしかないの。また、いつ噴火するか……」


「ドーーーン!」


 先ほど以上の噴火が起こり、レイニィ達のところまで噴石が降って来た。


「危ないの!」

「はっつ!」


 レイニィは魔法で、ウォーミィは『気』を使って噴石を防いでいく。


「ドドドドーーーン!」


 一際大きな噴火があり、『それ』が火口から飛び出して来た。

『それ』は噴煙の中をくねりながらこちらに向けて飛んで来る。


「あれは。龍?」

「爆炎龍なの?」


 火砕流を押し返して息つく暇もなく、今度は、爆炎龍がレイニィ達に迫り来るのだった。


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