第89話 爆炎龍なの。

 火砕流を押し返したレイニィであったが、その直後巨大な噴火が起こり、それと同時に爆炎龍が姿を現した。

 爆炎龍はレイニィ目掛けて迫って来た。


「お姉神様。爆炎龍が迫って来ます」

「くっ。一難去ってまた一難なの。何としても住民達を守るの!」

「はい!」


 気球下の住民からは悲鳴が聞こえてきた。

 レイニィとウォーミィは爆炎龍を迎え撃つべく、臨戦態勢をとる。

 爆炎龍は気球の目の前に来るとそこで一旦停止した。そして大口を開けた。

 レイニィは龍のブレスがくるかと身構えたが、きたのは怒鳴り声だった。


「折角ゆっくり寝てたのに、溶岩やら火山灰をぶつけてきたのは誰だ!!」


 レイニィが押し戻した火砕流は、運悪く爆炎龍が寝ていた火口にある横穴に流れ込んだようである。


「ごめんなさい。それをやったのは多分私なの。だけど、元を正せばそちらが火山を噴火させて、火砕流で集落を潰そうとしたからやったまでなの。いわば、正当防衛なの」


 レイニィは身に覚えがあったので素直に謝り、その上で正当防衛を主張した。

 だが、爆炎龍から返ってきたのは思いがけない事実だった。


「俺様に火山を噴火させる力はないし、火砕流も俺様が起こしたことではない。あれは自然現象だ!」


 思わぬ事実にレイニィが固まり言葉が出ない。

 代わりにウォーミィが確認する。


「えっ。火山の噴火は、爆炎龍が起こしているのではないのですか?」

「違う。先程も言ったが、噴火は自然現象だ。俺様が起こしているわけではない」

「では、なぜ火口にいるの?」


 レイニィが復活して疑問に思ったことを問い質した。


「俺様は火山からのエネルギーを糧にして生きている。火口にいるのは当たり前だろう」

「火山からエネルギーを取っているの?考え方によっては、噴火のエネルギーを抑えているとも考えられるの……」


「そこまで大量にエネルギーは取っていないが、そう言えないこともないな」


 暴風龍は少し自慢げに返事をする。


「ということは、他の龍達も一緒なの? 暴風龍が嵐を起こしているのではなく。嵐が起きるから暴風龍が嵐のエネルギーを吸いに来るということなの?」

「その通りだ。暴風龍は大変だよな。俺様と違って、わざわざ、嵐を追いかけて回らなければならないからな。おちおち、寝てもいられないだろう」


 とんでもない事実が判明してしまった。

 これではレイニィの正当防衛を主張できない。

 レイニィは素直に爆炎龍に謝ることにした。


「すみません。こちらが一方的に悪かったようです。申し訳ございませんでした」


 気球の上で土下座するレイニィ。ウォーミィもその様子を見て慌てて土下座した。


「わかればいい。二度とするなよ」

「わかりましたの」


「うむ。だが、どうするのだ? このままだとまたこちらに噴き出すぞ」

「それはできれば避けたいの。何か方法はないの?」


「そうだな。お前の力であれば、山の反対側に新しい火口を作れるかもしれない。そうすれば、こちらに噴き出てくることはなくなるだろう」

「なるほど。ウォーミィ、山の反対側に集落はないの?」

「山の反対側なら人は住んでいません。大丈夫です」


「それなら早速山の反対側に行くの」

「ちょっと待ってください。下の住民達はどうしますか。ぎゅうぎゅう詰めですし、早く安全な場所に降ろしてあげないと」


「そうなの。それもあったの。どうしたらいいの?」


 レイニィはどちらを優先すべきか悩んでしまった。


「それなら、俺様がお前を山の反対側まで運んでやろう」

「運んでくれるの? それならお願いするの」


「気球の操縦はどうするんですか? お姉神様以外操れませんよ」

「気球は遠隔で操作するの。さっき一度往復したから大丈夫なの」


「本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫、大丈夫。何かあったらウォーミィに任せるの。じゃあ、いってくるの」


 レイニィは気球から爆炎龍の背中に飛び移った。


「任せますと言われても、私では何もできませんよ。あー。お姉神様―」


 レイニィを乗せた爆炎龍は既に飛び去った後で、ウォーミィを乗せた熱気球も、避難場所に向けて移動を開始していた。


「お姉神様ーーー! ……」


 ウォーミィの呼び声だけが虚しく木霊していた。


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