第87話 救出作戦なの。

 火山の噴火により集落に取り残された住民を救出するため、レイニィは案内役にウォーミィを乗せて熱気球で城塞都市セットを飛び立った。


「レイニィお姉神様、まずは、あの噴煙を上げている火山を目指してください」


 ウォーミィが南西方向を指差す。

 そこには僅かながら、煙を上げている火山が見えた。

 火山活動は、今は小康状態のようだ。


「わかったの。いつ、また、噴火が起こるかわからないから、急ぐの。落ちないように何かに掴まっていてなの」

「はい、わかりました。では、失礼して――」


 ウォーミィはレイニィにしがみ付いた。


「……」


 レイニィとしては、熱気球の籠の縁に掴まってもらうように言ったつもりだったので、自分が抱き付かれて、一瞬、面食らってしまった。


「どうかされましたか、レイニィお姉神様」

「いえ、何でもないの。それじゃあ行くの」


 わざわざ籠の縁を掴むように言い直す必要もないかと、レイニィはウォーミィに抱き付かれたまま、風魔法で熱気球を火山目指して速度をあげた。

 それにより熱気球が大きく揺れる。


「キャア!」


 ウォーミィが小さく悲鳴を上げる。


「少し揺れるけど我慢してなの。速度最優先でいくの」

「はい。私は大丈夫ですからそれでお願いします」


 ウォーミィはレイニィに今まで以上にしっかりと抱き付く。

 こんな時だが、幼女に抱き付かれるのも、これはこれで悪くないと思うレイニィだった。


「お姉神様、あの溶岩に囲まれた集落がそうです」

「わかったの。まだ大丈夫そうなの。降下するの」


 ここへ来るまでにもいくつかの集落があったが、そこの住民は既に避難が完了していた。

 ここは火山に一番近かったため逃げ遅れてしまったのだ。

 ただ、集落が高台にあったため溶岩に飲み込まれることはなかった。


 熱気球は集落中心の広場に着地した。

 それに気付いた住民が集まって来た。


「救助に来ました。この熱気球で皆さんを運びますから、すぐに全員を集めてください」


 集まっていた住民は、家族や近所の者を呼びに散っていった。


 少し待っていると住民達が家族を連れてまた集まりだした。


「お姉神様。先に集まった者を乗せられるだけ乗せて出発してください」

「ウォーミィはどうするの?」


「私は最後でいいです。こちらで取り残された者がいないか確認しておきます」

「わかったの。すぐ戻って来るから、こちらのことは任せたの」


 レイニィは熱気球に住民を乗せると集落を出発した。


 住民達は、速度重視の荒い運転で多少怖い思いをしたが、無事安全な村まで送り届けられた。

 レイニィは住民を降ろすと、とんぼ返りでまた集落に向かった。


 レイニィが集落に着くと、何やらウォーミィと住民の一部が揉めていた。


「どうしたの?」

「お姉神様。それが二回では全員を運びきれそうもなくて、誰が残るかで揉めていました。私が残るといっているのに聞き入れてもらえなくて……」


「そんな。領主の娘様を残してなどいけません」

「そうです。とんでもありません。ここは集落の責任者の俺が残ります」

「いや、一番歳をとった私が残るよ」

「いや、いや、一番重い俺が」


 普通なら我先にとなるだろうに、みんなが、俺が残る、私が残ると。これは、もしかしてコントなのか? レイニィは呆れてしまった。


「あー。時間の無駄なので、取り敢えず全員乗れるか乗ってみてくださいなの」


 レイニィは熱気球から降りると、魔法を使って住民達を片端から無理矢理熱気球の籠に押し込んだ。

 さながら都会の通勤電車の様な状態だ。

 いや、それより酷い。

 小さい子供は大人に肩車されている。

 平面でなく立体的に詰め込んでいる。スーパーの野菜詰め放題といった感じだ。

 熱気球の籠もこれ以上詰め込めば破裂しそうだ。


 そこまで詰め込んでみたが、それでも後二人、籠から降りて詰め込み作業をしていたレイニィとそれを見守っていたウォーミィが乗り切らなかった。


「うーむ。どうやっても乗り切れないの」

「お姉神様が乗らないと気球が飛ばせませんわ。誰かもう一人残ってもらわなくてはなりませんね」


「俺が残ります」

「私も残りますから、ウォーミィ様がお乗りください」

「いや俺が」

「いえ私が」


 また、住民同士で言い合いが始まってしまった。


「はぁー。どうしたらいいの!」「ドーーーン!!!」


 レイニィが呆れて溜息をつくと同時に、大きな爆発音がなり、空気が振動した。


「お姉神様。火山が噴火しました」


 レイニィが火山の方を確認する。


 火口からモクモクと煙を上げ、火山灰や火山弾を噴き上げて爆発的に噴火している。そして、火口からこちらに向けて、山肌を滑るように、溶岩や火山灰が入り混じり、灰色に濁った高温のガスが、全てを飲み込み高速に迫って来た。


「このタイミングで火砕流なの!!」


 レイニィが悲鳴に近い叫び声をあげた。


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