第63話 サニィが来たの。

 本格的に冬に入り、年の瀬が近付いてきた頃、国主の娘サニィが港町ライズにやって来た。


「レイニィがいつまで経っても遊びに来ないから、私の方からやって来ましたわ」

「サニィお姉様、よく来てくれたの。いらっしゃいなの」


「あなた、変わった物を作っているそうね。温度計だったかしら?」

「そうなの。興味があるの。なら、早速、見に行くの」


 レイニィは、出されたお茶もそこそこに、サニィを庭に案内した。


「これが百葉箱なの。中に、温度計と湿度計と気圧計が入ってるの」


 レイニィは自慢げにサニィに説明する。


「へー。あの変わった物で風の向きと強さがわかるのね。ところで、ここに無造作に置かれた桶は何?ちゃんと片付けておいた方がいいですわよ」

「これは雨量計なの。雨の降った量を測るの。ここに出しておかないと駄目なの」


「これも観測のための道具の一つなのですか?ただの桶にしか見えませんでしたわ」

「実際、ただの桶なの。雨量を測るにはそれで十分なの」


「見た目通りただの桶なのですね――」


 サニィは肩透かしを食らった気になった。


 レイニィはそのサニィの様子に気が付いた。折角来てくれたのだから、もっと、楽しんでもらいたいと、レイニィは考えた。


「そうだ、凧揚げをしてみるの」

「タコ?ですか」

「待っててなの。持ってくるの」


 レイニィは試しに作った凧と連凧を持ってきた。


「これが凧。空を飛ぶのですか?魔力が込められているのですか?」

「魔力はいらないの。風の力だけで飛ぶの」


 幸い、凧揚げには、お誂え向きの季節風が吹いていた。凧は大空に舞い上がる。


「凄いですわ。本当に飛びましたわ!」


 サニィは大喜びだ。レイニィも一緒になって喜んだ。


 次の日、レイニィはサニィに街の中を案内した。


 港町ライズは、貿易港である。東にあるサーモ諸島の国々から様々な物が入ってきている。

 それらがあちこちの店に並んでおり、サニィにとっては初めて見る物ばかりであった。

 あれは何。これは何。というサニィの質問にレイニィは嫌な顔をせずに答えていった。


「こんにちは、レイニィ様。お買い物ですか。そちらのお方は?」


 レイニィ達は突然、妙齢な女性から声を掛けられた。


「こんにちは、フリージィさん。こちらは首都シャインからいらした、サニィお姉様なの。街の案内をしているところなの」


 フリージィは、港町ライズにおいて、五本の指に入る程の大きな貿易商を営んでいた。

 領主の屋敷にも度々訪れ、そこでレイニィとも何度か顔を合わせていた。


「サニィ様というと国主の娘さんでいらっしゃいますか。私、フリーザ貿易のフリージィと申します。以後、お見知りおきを」

「初めましてフリージィさん。国主の娘のサニィです。こちらこそよろしくお願いしますね」


「そうだ、折角お近付きになれたのですし、私の屋敷にいらっしゃいませんか。丁度、珍しい果物が入ったところなのです。出来れば試食していただいて、ご感想などをお聞かせ願えればと思います」

「え、どうしましょう?」


 サニィはレイニィの方を見る。

 レイニィは護衛のアイスと侍女のスノウィの方を確認する。


「お嬢様、フリージィ様のところでしたら大丈夫かと。お言葉に甘えてはいかかですか」

「そうなの。じゃあ、お言葉に甘えるの。サニィお姉様もそれでいいの」

「レイニィが構わないなら、私はそれでいいわ」


 レイニィ達は、フリージィの招待を受けることにした。


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