第62話 アイテムボックスなの。

 勇者のアイテムボックスをみたレイニィは、自分でも欲しくなった。

 なんといっても便利である。

 部屋は片付く。出かける時は手ぶらで済む。手品のタネとして使える。

 便利な点をあげたらきりがない。


 勇者は女神様の加護だと言っていたが、魔法でどうにかならないかエルダに聞いてみた。


「勇者の使っていたアイテムボックスが、魔法でできないかだって? それは無理だろう。あんな常識外れなもの」


 レイニィにしてみれば魔法自体常識外れなのだが、魔法ができて当たり前なエルダからすれば違うのだろう。


「昔から空間魔法と時間魔法は、研究されているが実現されていないぞ」

「研究はされているの?」


「研究はな。成果は全くだ」

「そうなの。残念なの――」


「ですが、お嬢様なら違う視点で新しい発見があるかもしれませんよ」


 スノウィが珍しく口を挟んでくる。


「まあ、確かに、レイニィの考え方は独特だからな。因みにアイテムボックスはどんな仕組みだと思う?」

「たぶん、異次元に穴を開けて、そこに収納する感じなの」


「異次元ね。異世界とは違うのだろう?」

「違うの。直線の一次元、平面の二次元、立体の三次元、時間の違いによる四次元。その外が異次元なの」


「ほう。面白い考えだな。魔法はイメージ次第だからな。レイニィならアイテムボックスの魔法を作れるかもしれんな」

「新しい魔法なの。試練も達成できるの。一石二鳥なの」


「試練といえば、試練の紙の綴り、よくあの封筒に入りますよね。ある意味、あれもアイテムボックスですね」

「そう言われればそうだな」

「スノウィの言う通りなの。これを調べれば何かわかるかもなの」


 レイニィは神の封筒を取り出し、調べ始める。


「見た目はただの封筒なの。これに紙の綴りを入れると入るの」

「他の物は入らないのですか?」


「試した事なかったの。試しに何か入れてみるの」

「では、これをどうぞ」


 スノウィがハンカチを取り出して、レイニィに渡す。

 レイニィはそれを封筒に入れる。


「入ったの!!」


 レイニィは、今度は封筒からハンカチを取り出す。


「取り出しも問題ないの」

「もっと大きな物が入るか試そうじゃないか」


 エルダは側にあったクマの置物を持ってくる。鮭を咥えたよく見るあれである。


「そんな大きな物入るのですか?」

「やってみるの」


 レイニィはクマの置物を封筒に入れた。吸い込むように封筒の中にクマの置物は消えた。


「入ったの?!」


 それから色々な物を出し入れしてみたが、入らない物はなかった。

 大きさも、素材も関係なかった。

 魔法なら鉄は入らないという可能性もあったが、鉄も問題なく入れることができた。

 量や数も、入れた物全てが収まった。

 現時点では制限があるのかはっきりしなかった。


 一つ制限があるとすれば、入れることも、取り出すことも、レイニィ以外はできなかった。レイニィ専用である。


 他の人の封筒はどうか調べてみたが、スノウィの封筒はごく普通の封筒だったが、エルダの封筒は、物を入れることができた。

 但し、容量制限があり、鞄サイズ以上には物が入らなかった。


「これは。今まで気付かなかったぞ。この封筒にこんな便利な機能があったとは」

「私の封筒は普通のものでした――」


 スノウィは少し残念そうだ。


「魔術を使えるかが関係するかもしれないの」

「そうだな。封筒の違いというより、その可能性が高いな」


「あたしが、スノウィの封筒に魔力を込めるから、スノウィが何か入れてみるの」

「わかりました」


 スノウィが招き猫の置物を封筒に入れる。


「入りました! お嬢様。入りましたよ!!」


 スノウィは大喜びである。


 実験の結果、物の出し入れは本人しか出来ず。魔力が必要であることがわかった。

 魔力は本人のものでなくてもよく、魔石から供給しても構わなかった。但し、供給される魔力の量によって、入れられる量が増減した。

 魔石からの供給で入れられる量はたかが知れていた。せいぜい、大事な鍵をなくさないように仕舞っておくのがやっとだった。


 レイニィが無制限に入れられるのは、女神様の加護「魔力無限」があるからだった。


 かくして、レイニィはアイテムボックスを手に入れた。


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