第61話 モーターができたの。

 それから一週間後。レイニィはモーターの試作機を完成させていた。


 試行錯誤の結果。針金はミスリルでなくとも、銅線でも力は弱くなるものの動くことが確認できた。

 ミスリルは高価であるから、製品の値段を考えるとありがたいことだった。


 また、ただの銅でなくミスリルを僅かに混ぜた合金にすると、ミスリル並みに効率が

 上がることもわかった。

 引き付けられるものも、魔石やミスリルだけでなく、鉄以外の物は、強弱の差こそあれ引き寄せられることがわかった。

 これから素材の研究が進めば、より一層効率的なモーターが出来ることだろう。


 試作品のモーターは、ミスリルの付けられた軸棒が、回転することにより、周りに配置されたミスリルの三つのコイルに、順番に魔石から魔力が流れるようにできていた。


 これも、コイルの改良や、数を増やすなどして、力を上げていくことが出来るだろう。今後の研究次第である。


 レイニィはやって来た元勇者に、これらのことを説明する。


「説明は以上よ。私ではこれ以上の事は出来ないし、やってる暇もないの。後は、適当な魔道具作成所を探して、そちらに頼むことね」

「そうか。わかった。後は俺がなんとかしよう」


「そうしてくれると助かるわ。くれぐれも、この世界を不幸にする使い方をしないように気を付けてね」

「これが世界を不幸にすることがあるのか?」


「いくらでもあり得るわ。これで乗り物を作れば、馬車よりスピードが速いものも出来るもの。

 それだけ活動範囲が広がって、他の国と戦争になるかもしれないわ。

 もっと直接的に、スピードが速いという事はぶつかれば死ぬわ。人殺しの武器になり得るのよ。

 乗り物以外にも動力として使えば、大量生産が出来るわ。

 でもそれは、自然を破壊し、動物を減らし、人間の健康を脅かす事になりかねないの。

 異常気象が起こって、幸福度は上がるどころか下がるかもしれないわ」


「随分と実感がこもっているな?」

「実際に元の世界では社会問題になっているわ。甘く見ていると取り返しがつかないのよ」


「俺が転移してから百年のことなんだよな?」

「百年もかからないわ。五十年前には公害により被害が出て大問題になっていたわ。というか、既に百年以上前から被害は出ていたのよ」


「そうなのか、俺はそういったことは詳しくなかったからな。肝に命じておくよ」


 元勇者はモーターの試作品を持って帰っていった。


「お嬢様、よろしかったのですか?」


 スノウィがレイニィに確認する。


「なにが?」

「モーターの生産を他のところに任せてしまって」


「これ以上は面倒みきれないわ」

「ですが、相当の利益が得られるのではないですか?」


「別にお金には困ってないわ」

「欲がないのですね――」


「そんな事より天気予報よ。それに、悪魔に目を付けられたくないしね」

「そうですね。悪魔が関わってくると厄介ですね」


「だからもう勇者とは余り関わりたくないのよ」


 レイニィにとっては、お金より天気予報の方が重要であった。


 だがしかし、その後も勇者は何度も相談に訪れ、鬱陶しく思ったレイニィは、たんまり相談料をふんだくることになるのだった。


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