第64話 フリージィに招待されたの。

 フリージィの屋敷は、街の真ん中にありながら、庭のある立派なものだった。

 レイニィ達は応接室に通されていた。


「早速、試食していただこう」


 フリージィの指示でメイドが果物を用意する。


「バナナに、パパイヤに、マンゴなの!」

「おや、レイニィ様はご存知でしたか。これは東のサーモ諸島より遥か南にある世界樹の島から輸入した物で、そことの直接交易は私のとこ以外ではほとんど行われていないのですが――」


「すべての植物の起源とされる世界樹のある島ですか――。そこの物となるとかなり珍しい物なのでしょうね」

「そうですね。珍しい物も多いですが、この三つは比較的手に入りやすいです。ただ、運んでくるのが大変ですね」


「かなり遠いのですか?」

「天候にもよりますが、片道、一月以上かかることもありますね」


「そんなに遠いのですか――」

「一月以上かかるの? 困ったの――」


(たしか、世界樹関係の試練があったはずだ。熱気球で飛んでいけるかと思っていたが、船で一月以上かかるとなると、計画を練り直す必要があるわね)


「レイニィ様、何がお困りですか?」

「試練の達成のため、世界樹までいかなければならないの」


「それでしたら、私どもの船をご利用ください。レイニィ様でしたら大歓迎ですよ」

「そうなの。助かるの。その時になったらお世話になるの」


「はい、いつでもお声がけください」

「いいわね、レイニィは色々なところに行けて。私は首都シャインから出たのはここが初めてよ。もっとも、春には城塞都市セットに行く予定ではあるのだけれど」


「城塞都市セットに行くの? いいの。あたしも行ってみたいの」

「あら、レイニィも行ってみたいのですか。なら、一緒に行きますか?」


 実はサニィは前からレイニィを誘って行きたいと考えていたが、なかなか言い出すタイミングが掴めず困っていた。話の成り行きで、これ幸いと誘ったのである。


「行くの。春にはなれば熱気球でも行けるの」

「熱気球? それはなんですか?」


「それは春までの楽しみなの」

「春まで待たなければなりませんのね。でも、楽しみが増えましたわ」


 この時期、冷たい季節風が強めに吹いているため、レイニィは、寒くて、熱気球に乗る気になれなかった。


「さあ、お喋りも楽しいですが、こちらも召し上がれ」


 フリージィが果物を勧める。

 レイニィ達は自分の好きな物を取り、食べていく。


「美味しいの!」

「甘くて美味しいですわ。こちらは、少し酸味があるのですね」

「そちらはアクセントにレモンを掛けています」


「うん、いけるの!」

「お口にあったようで良かったです」


「ご馳走様なの」

「貴重な物をご馳走いただきありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ、貴重なご意見をいただけました」


(レイニィたんにはどれも好評だったけど、特にバナナがお好きそうでしたわ。これからバナナの取引量を増やすとしましょう。そうすれば、もっとレイニィたんとお近付きになれるかもしれませんわ)


 実はフリージィは「レイニィたんもえー」の危ない奴だった。


 といっても、実害があるわけではないので、護衛のアイスなども分かっているが監視で留めていた。

 それくらいで、いちいち目くじらを立てていたら、きりがないからであった。


 フリージィの屋敷でご馳走になった二日後には、サニィも首都シャインに帰って行き、クリスマス寒波や年末寒波というものもなく、レイニィは穏やかに家族と年の瀬を迎えるのだった。


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