第51話 台風が来るの。
「ふんふんふんふん、ふふ、ふんふん」
調子外れの鼻歌を歌いながら、レイニィは今日も庭に作った百葉箱に向かう。
一通りの観測機器が出来たこともあり、それらを収めて、きちんとしたデータを得るため、百葉箱を作ったのだ。
「お嬢様はご機嫌ですな」
レイニィの鼻歌を聞き付けてやって来た庭師のカームが声を掛ける。
「それはね。やっとこれだけの物を揃えて、これから本格的に気象観測が出来ると思うと、嬉しくなって、鼻歌も歌いたくなるというものよ」
「それはようございました」
「いつもカームには、留守中に代わりに観測してもらってすまないわね。感謝しているわ。ありがとう」
「いえ、大した手間でもありませんから」
「そんなことないわよ。いつも決まった……。あれ?」
「どうかされましたか?」
レイニィは百葉箱の蓋を開け、中を覗き込んだまま動きを止めた。
レイニィの様子がおかしい事にカームも心配になり、同じ様に覗き込んだ。
「気圧計の値がおかしいのよ。壊れたかしら?」
「本当ですな。随分と低い値が出てますな」
レイニィは、気圧計が壊れていないか確認する。
「うーん。壊れた様子はないわね」
「この値が低いとまずいのですか?」
「気圧が下がるのは、天気が悪くなる兆しなんだけど。これだけ下がるとなると、ついにあれが来るのか?」
「あれって何でございますか?」
「台風よ、台風!」
「台風? ですか?」
「ああ、えーと。こっちでは、何と言ったら。そうだ、暴風龍が来るのよ!」
「え、暴風龍が来るのですか、そりゃ大変だ。風で飛ばされそうな物を片付けないと。お嬢様、失礼します!」
カームは慌てて台風への備えをすべく、その場を去って行った。
「私もさっさと観測結果を記録して、台風が来ると知らせて回らないと――」
それからレイニィは、先ず父親のゲイルの執務室に向かった。
バタン!
「お父さま、大変です。台風が来るの!」
「何事だ。レイニィ、ノックもしないで、お行儀が悪いぞ」
「あ、すみません。急いでいたの」
「それで、台風とは何だ」
「台風は、暴風龍のことなの」
「何だって。レイニィには暴風龍が来ることがわかるのか?」
「あくまでも予測だから、必ず来るとは言えないけど、その兆しがあるの」
「兆しか……」
ゲイルはどうしたものか考え込む。レイニィの言っていることは信じているが、それを住民達に伝えるべきか。
確実に来るというなら話は簡単であるが、レイニィ自身が確実だとは言えないと言っている。
無駄に騒ぎ立てただけということになりかねない。
黙っていれば被害が出るかも知れんが、それはいつものことだ。
それで、文句を言われることはないだろう。
「何を迷っているの? 被害を少しでも減らすため、注意喚起するの!」
「そうだな。少しでも可能性があればそうすべきだ。クラウド。皆に暴風龍が来るかも知れないから注意する様に知らせてくれ」
「畏まりました」
「あたしは、魔法を使って暴風龍の進路を予測するの。地図を出してなの」
「地図。地図だな。今用意する」
レイニィは能動探索(アクティブサーチ)の魔法で、暴風龍の動きを探り、進路予測を立てるのだった。
こうして、初めて台風の注意報と進路予報が出されたのだった。
その翌日、予報通り、暴風龍はやって来たが、予め行った注意喚起が功を奏して、被害は最小限に食い止められたのであった。
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