第50話 とんでもないものをもらうの。

 ミスティはガラス製品を本格的に製造販売するために、街に中に工房と販売所を兼ねたお店を開いた。

 お店の主力商品は、グラスや照明器具であるが、レイニィの作った温度計なども販売されていた。

 温度計などはそれほど数が出る物ではなかったが、お店が開店した時に、採算を度外視して、グラスや照明器具を買った人におまけとして配ったため、口コミで認知度が上がり、少しずつではあるが売れていた。

 レイニィにとっては温度計を売って儲けることが目的ではなく、温度計が普及すれば赤字でも構わなかった。


 レイニィは時間があれば、お店に顔を出し、お客さんに温度計の使い方などを説明していた。


「いらっしゃいませなの」


 一人の女性が入ってきたので、レイニィは出迎えの挨拶をする。


「少し見せてもらうわね」

「どうぞごゆっくりなの。何か必要があればお声がけくださいなの」


 女性はレイニィに一声掛けてから店の中を見て回る。

 レイニィはその女性を見て既視感を感じる。


(どこかで会ったことがある様な気がするけど? そうだ、首都シャインの街で見掛けたんだ。でも、その時も前に会ったことがある様な気がしたんだよね……)


 レイニィはその女性から目が離せなかった。

 その女性は新しく出来た鏡を感心した様に覗き込んでいる。

 レイニィからも鏡越しの女性が見えた。

 そこで、レイニィは、その女性が誰だかわかった。


「あー! 私じゃないの?!」


 思わず大声をあげてしまう。


「やっと気付いたわね」

「え、誰? どういいことなの?!」


 その女性は、レイニィの前世の姿をしていた。

 混乱するレイニィに、その女性は正体を明かす。


「私は女神よ。この世界に降りるために、貴方の前世の身体を使わせてもらっているわ」

「これ、前世の私の身体……」


 レイニィはお構いなしに、女神様の身体を触りまくる。


「くすぐったいわね。余り触らないで」

「あ、すみません」


「まあいいわ。時々、この身体で降りて来て、見させてもらってるけど、貴方よく頑張っているわ」

「え、女神様はストーカーなんですか?」


「ストーカー扱いしないでくださいな。監視よ、監視」

「何故、監視されなければ?」


「加護を授けてあげたでしょ! 異世界の技術を広めるという約束と引き換えに――」

「そうですね。ご覧の通り頑張ってますよ(汗)」


(やば。監視されてたのか。余り約束の事は意識してなかったから、実績を求められるとは考えていなかったわ。これからは注意して約束も果たさないと――)


「そうね。よく頑張っているわ。なので、褒賞をあげようと思うの。この身体も使い勝手がいいし、そのお礼も兼ねてよ」

「はい、ありがとうございます」


(その身体、あげたつもりはなかったんだけど――。何かもらえる様だし。まあ、いいか)


「褒賞は後で確認してね。それじゃあ、引き続き頑張ってね」


(何がもらえるんだろう。気象観測に役立つ物だといいな。アメダスかな。気象衛星もいいな。楽しみだな)


「はい、頑張ります。ところで、確認って何をどう確認するんでしょう。って。もういないんかい!」


 レイニィが妄想している間に、既に女神様は姿を消していた。


「さて、困ったぞ。褒賞を確認しろと言われたが、どうやって確認するんだか。うーん。そういえば」


 レイニィは、一つの可能性を思い付いて、神の封筒を取り出した。

 その中から、便箋を取り出し、書かれている事を確認する。


 名前:レイニィ ポート ライズ

 職(ジョブ):大魔術師(仮)

 賞罰:称号「希少世放神」


「やっぱり。賞罰に何か書き足されてる。称号「希少世放神」? 何だ、これ?」


 レイニィは頭を捻る。


「希少世放神って、神か。ん? きしょうよほうしん。気象予報士のことか――。女神様。誤変換してますよ!

 確かに気象予報士は神の様な存在だと言いましたが、勘違いにも程がありますよ。

 それに、これ、便箋の一枚目じゃないですか。こんなの、身分証明書として人に見せられないですよ。まったく!!」


 レイニィは奇しくも「希少世放神」の称号を手に入れたのだった。


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