第7話 教会からの帰りなの。
教会からの帰りの馬車の中で、レイニィは両親の話を聞いていた。
「レイニィが『大魔術師』の仮職(プレジョブ)を得たのは、きっとウインディの血筋によるものだろうな――」
「そうですね。人間には魔力の適性は普通ありませんからね」
「え、お母さまは人間じゃないの?」
「レイニィ。魔術を使えるのはエルフだけなの。お母さんの祖先にはエルフがいたのよ」
「あたしやお母さまには、エルフの血が入っているということなの?」
「そうよ。でも少しだけね。お母さんは、魔術は使えないわ」
「お姉ちゃん達は?」
「ミスティ達も使えないわ。だけど、そうね。ミスティが『錬金術師』の職(ジョブ)を得たのもエルフの血の影響かもしれないわね」
「へー。お姉ちゃん『錬金術師』だったの」
「あら。知らなかったの?」
「だって、お姉ちゃん、お部屋に入れてくれないんだもの」
「そうね。ミスティの部屋は危険な物も置いてあるから、レイニィは、まだ入らない方がいいかもね」
「えー。つまんないの」
「そんなことより、レイニィにはもっと面白いことが待っているだろ」
「え、なんなの?」
「自分で魔術が使えるようになるんだぞ。面白そうじゃないか?」
「それは楽しそうだけど……。ちょっと考えてみたら、みんな魔法を使ってるの。灯りをつけたり、火を起こしたり」
「ああ、あれは魔道具を使っているんだ。魔術は道具がなくても、自分の好きな魔法が使えるようになるんだぞ」
「そうなの? でもどうやって使うの?」
「本を見て勉強する方法もあるけど――。そうだな。誰かに教えてもらった方がいいかもしれないな」
「そうね。実家に誰か教えてくれる魔術師がいないか聞いてみるわ」
「そうしてくれるか。助かるよ」
「娘のためですもの。当たり前よ」
「ウインディ」
「あなた」
何故か、手を取り合い見つめ合う二人。
「お父さまとお母さまは、ラブラブなの」
この調子では、弟か妹が、いつできてもおかしくないと思うレイニィだった。
同乗しているスノウィも、主人夫妻の仲睦まじい様を微笑みながら見守っていた。
「ところで、試練に色々な魔術を覚えるものもあったけど、教えてもらってもいいの」
「それは構わないぞ。他の試練も、教えてもらったり、助けてもらったりしていいんだぞ。勿論、全て人任せでは駄目だけれど。寧ろ、積極的に助けてもらいなさい。それが人の繋がりになるのだからな」
「試練が書かれた紙を見せれば、たいていの場合、嫌な顔をせずにみんな助けてくれるわ。それが昔からの決まりごとなのよ」
「へー。そうなの」
レイニィは試練の多さに辟易していたが、それを聞いて幾分希望が湧いてきた。
「ところでレイニィはどんなジョブを得たかったのだい?」
ゲイルはレイニィの試練の多さに、本人の希望があれば、もっと楽な職を目指した方が良いかもしれないと考えていた。
「ん。うーんと」
レイニィは本当のことを言っても大丈夫か考えたが、今更か、という思いもあり、素直に答えることにした。
「お天気キャスター」
「なんだいそれは?」
「お天気をみんなにお知らせするお仕事なの」
「そうかい、それはいいね。可愛いレイニィに教えてもらったら、みんな大喜びだろうね」
ゲイルは子供の戯言だと思い、話を合わせることにした。
「そうでしょう。あたし頑張るの!」
「頑張りなさい」
ゲイルはこの可愛い娘を見守っていこうと決意を新たにした。
「ねえ、お母さま。お姉ちゃんは『錬金術師』だとすると、お兄ちゃん達のジョブはなんなの?」
「二人ともまだ仮だけれども、クールが『統治者』で、ドライが『騎士』よ」
「へー。二人ともそれっぽいの。家の後継者としても最適なの」
「神様は、本人の能力だけでなく、周りの状況を踏まえてジョブを決めているからよ」
「長男には、その家を継ぐジョブが与えられる事が多いんだ」
「そうなんだ。よくできてるの」
レイニィは考える。それでは何故私の仮職が希望していた『お天気キャスター』でなく『大魔術師』なのかと。
女神様が約束を違えていなければ、自分の努力次第で『お天気キャスター』の職を得られる可能性があるはずだ。
思い付いたのが、『お天気キャスター』が『大魔術師』の上位に位置する職である可能性だ。
女神様が『お天気キャスター』は超上級だろうと言っていた。
そして、仮職は努力次第で上級職を得ることができると。
これは神父も言っていた。
となると、仮職が上級ならば、努力次第でその上の超上級になれるのではないか。
これはもう、努力するしかないのだと。
「うん。私頑張るの!」
レイニィは『お天気キャスター』になるべく、決意を新たにしたのだった。
現状、『お天気キャスター』なんて職(ジョブ)はないのであるが。
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