おまけSS

花姫様のお好みは?

「貴様、犬派とはなにごとだ、司! どう考えたってねこちゃんのほうがかわいいに決まっているだろう!」

「は? 何度言われてもわんこのほうが上だし。海景がにゃんこをすきなのはわかったけどさ、他人に自分の好み押しつけるのはどうかと思う」


 ここは、八代神社やつしろじんじゃ

 今日も司の検診と称する監視に訪れたとのたまう海景が、ぴゃんぴゃんと吠えたてている。

 それでもなんだかんだ身体の調子はてくれるらしく、司はあらためられた際にはだけた服を直しながら、に言った。

(ああ、僕のばか。何の気なしに“どんなにゃんこの動画観てるの”、なんてかなきゃよかった……)

 海景は司が思っていた以上に『ねこちゃん動画沼』にはまりきっていて、時間を見つけては動画投稿サイトをいそいそと開き、検索欄へ『ねこ かわいい』というワードを打ちこみつづけているそうだ。“ねこちゃんなら美猫様からちょっぴりくちゃっとしたお顔立ち系までなんでもゆける”という持論を意気揚々と披露ひろうしたところで、海景も司へ“司ももちろんねこちゃん派だろう?”尋ねかえしたのが運の尽きだった。

「え? ごめん。僕ふつうにわんこのがすき」

「なっ……なんだとぉおお!!?」


✿✿✿✿✿


 そして、現在にいたるわけだが。

「もー、めんどくさいよ。海景はにゃんこがすき。僕はわんこがすき。それでいいじゃない」

「わかっていない。全くわかっていないぞ司。だいたい、姉上様はねこちゃん属性なのに。わんこがすきとか、姉上様への想いが足りていないのではないか?」

 海景が美しい顔を歪めて放ったこの一言に、司の『絶対論破スイッチ』が入ってしまった。

「はぁ? 聞き捨てならないんだけど。花姫様はどう考えたってわんこ属性でしょ!」

「どの辺りがだ!? とっても照れ屋さんで、愛らしさも備えた凛々しい瞳……ねこちゃん属性そのものだろう!」

「花姫様はちゃんと素直だし、海景にはあの懐っこいきらきら笑顔が見えてないの?! それにっ、」

(それに花姫様は、『夜』はすごいだし……ッ! でも絶対、)


 ――こいつには教えたくない。

 司がそんな募る思いを必死にこらえ、言葉を選びつつ猛反駁もうはんばくしていると。

「司、海景? そろそろ診察は終わったかの……?」


 あまりに司たちのいる部屋からぎゃいぎゃいと騒いでいるような気配が続くので、不安そうに顔をのぞかせたのは当の花姫だ。

 司の苛立いらだちはかなりのものだったらしく、花姫を味方につけようと、彼にしては珍しく食い気味で花姫へ問いかけた。

「ねえっ、花姫様は動物でいったらなにがすき?! わんこって忠実だし黒目がちでうるうるしてるの最高だし、しっぽで感情表すのかわいくない!?」

「はっ、ねこちゃんだってしっぽで感情表すわ!! 姉上様、ねこちゃん! 高貴な立ち居振る舞いと気まぐれ小悪魔な性分、下から見上げたら大変キューティーなねこちゃんでございましょう!?」


 花姫はしばしきょとん、としていたが、視線を上にさまよわせ、あごの辺りに人差し指を当てるような仕草をする。

「すきな動物……? うーん、わらわは……」

 固唾かたずみ、視線で花姫に続きをうながす司と海景。

 しかし花姫は至極しごく無邪気に、表情を輝かせながら述べた。

「牛さんが一番かの!」

「「牛??」」

 そこから花姫の独擅場どくせんじょうが始まる。

「くふふ、牛さんはすっごく『お得』なのじゃぞ! まず乳牛さんは牛乳を出せる!」

「「ぎゅうにゅう」」

「肉牛さんは美味しい!!」

「「おいしい」」

「そして闘牛さんにいたっては……強い!!!」

「「つよい……」」

 三本の指を立ててドヤ顔をする花姫に、彼女へ心酔しんすいしているふたりはとりあえず、時速60キロほどでうなずいておいたという。



✿✿✿ 終わり ✿✿✿

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【NL】花姫様を司る。※R-15 コウサカチヅル @MEL-TUNE

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