Bar LifeTime あなたの“一生のお願い”叶えます

伍桃万喜

第1話Prologue Welcome to “Bar LifeTime”

都会の片隅。

歓楽街でもなく住宅街でもない、オフィス街の奥にひっそりとある間口一間半程度、ウナギの寝床のような5階建ての古びた雑居ビル。オフィス街の高層ビルの中に埋もれるようにして立っているビルは、いっそう古さが際立つ。

そんなビルの入口の扉を開けて入っていく人間がちらほら見受けられる。

アンティークライトが扉を照らし、まるで店に誘っているような雰囲気すら漂わせている。

オーク材のアンティークドアの隣には小さく“Bar LifeTime”と刻まれているプレートが貼り付けてあり、ドアには「OPEN」のプレートが下がっている。

誘われるままに扉を開けば、そこはわずか8席しかないカウンターバー。

カウンターの奥の棚には天井までぎっしりと酒やリキュールの瓶が並んでいる。


いらっしゃいませ。

“Bar LifeTime”へようこそ。


静かで穏やかな声色で店内に誘うのは、カウンターに佇むオーナー兼バーテンダーの一代汀いちしろみぎわ

促されてスツールに座れば、シンプルながらも質の良いガラス器に盛られたナッツと木の板に書かれたアルコールメニューが出される。

8席しかない店内は常に満席に近い状態だ。17時半の開店直後のあたりは、汀の知人が訪れて席を埋めることも多いが、19時くらいになると女性の客が席を占める。

汀のビジュアルと柔らかい笑顔、静かな話し方が女性客を引き付ける。

身長は180センチと長身。髪の毛は肩より15センチほど長い所謂長髪、色は明るめのプラチナアッシュで束ねて右前に流している。結び目には水晶のヘアカフス。

色白で顔のパーツのバランスが完璧。全体的に何がどうとか言えないくらい整っている。イケメンという言葉があるが、物足りない。眉目秀麗という言葉でしか言い表せないビジュアルはモデルやタレントにスカウトされないのが不思議なくらいだった。

その眉目秀麗の顔の中でもひときわ引きこまれるのが切れ長で左目の虹彩がアンバーのオッドアイ(虹彩異色症)。すべてを見通している。そんな眸だ。

着ている服は白いシャツ。襟に銀糸でイニシャルが入っているところを見るとオーダーメイドのシャツであることがうかがえる。

ダブルカフスでカフスリンクスはヘアカフスと同じデザインの水晶。

パンツは黒。

夜の職業らしく華奢に見える。

このビジュアルに加え、常に柔らかい笑顔で、8席の客を分け隔てなく接客をする汀の完璧さも客を呼び込む要因の一つだった。

雑誌にもネットにも載らない店にも関わらず、満席であきらめて帰っていく客も少なくない。

“Bar LifeTime”は美味しい酒とナッツ類の渇きもの、そしてチーズ類だけを提供している。食事を楽しみながらワイワイするのではなく、美味しいお酒と会話を静かに楽しむバーというところが、男性客にも好かれていた。


何の変哲もないバー。ただ、時折、不思議なことも起こっている。


何時きても、何度きても店に入ることができない。


いつきても、満席か店休日。

一番賑わう19時前後なら満席もしょうがないと思うが、開店直後の17時半に訪れても満席な事が一度や二度ではない。

更には、オフィス街が閑散とする時期を見計らってみても満席か店休日に遭遇してしまう。

会社の同僚で“Bar LifeTime”の常連に同伴させてもらう約束を取り付け、いざお店に向かおうとすると、その同僚が突然行けなくなる。

そんな“運”の悪い人もちらほらいる。

ただの偶然と片付けられる程度のこと。しかし、満席という状況にに遭遇しない人から見たら、“不思議”なことだ。だけど、結局は“運が悪いね”で片付けてしまう。

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