第10話 リーン・フォン・カグヤ「前編」
先日、俺は見事ジョン・アレス先輩を負かしてBブロック2回戦進出することができた。オリジナルである合体魔法と、師匠に鍛えられた山野流があるからこそ成し得たことだと思っている。
「2回戦進出おめでと」
202号室にて、カグヤさんとちょっとした祝杯を挙げていた。
「ありがとう。それより、カグヤさん今日2回戦あるんだろ?練習しなくていいのか?」
俺の祝いよりも自分のことを考えてほしいと思っていた俺だったが、返答されたのが意外なセリフだった。
「私はAランクよ。次の相手は同じAランクだけど、同じ1年だし。まあ、余裕かなぁ」
「そ、そうか……。頑張れよ」
カグヤさんの余裕っぷりは凄まじい程だった。そして、13時となりカグヤさんの試合の番になった。俺は一昨日のカグヤさんの試合を見れなかったので、今回は見に行こうと決意する。
「Aブロック、続いての試合はーーー!1年生ながらも、上から二番目のAランクであり、学年1位、全校61位の波にのっているこの女性!リーン・フォン・カグヤ選手だー!」
私は、待機室にて集中力を高めようと一人音楽を聞いてたが、実況のあまりのうるささに、少々ド肝を抜かれた。ここまで聞こえるほどとは。
「そんな過剰評価しないでもらいたいのに……」
「そしてぇ!そのカグヤさんに対するは、同じ1年でAランク!こちらは学年3位、全校152位の微妙な順位のー、
豊田駿。彼は、迅速な速さを引き出す魔装、韋駄天の使い手にして、上級魔法のエアリアル・フラッシュを使う。
エアリアル・フラッシュとは、オリオンに代々伝わっている伝説中の天使、エアリアルの光の力を使えるようにした目くらましの魔法。
目くらましごときが、なぜ上級魔法なのかというと、とてつもない妨害性と使い勝手の悪さからそう設定された。
「私の魔法の使い方で、勝てるかしら……」
そして、残り1分となったので、待機室から出て会場に向かう。会場はすぐそばなので、そんな忙がなくてもいい。会場につき、自分の立ち位置に着く。そして、目の前の扉が開き、コロシアムのようなドームに入る。
「2回戦目だけど、やっぱ慣れないわね」
私は観客(立花学園の生徒や他の学園の偵察の生徒)に手を振られたので振り返す。
「ふん。貴様が噂のリーンか。私も1回学年ランキングを決める試合に出たが、その時は貴様と山野に敗れてしまって惜しくも3位だった。だが、今回はそうは行かない。貴様の攻略法はすでに出たからな」
その自身満々のセリフに会場がうるさくなる。こんなどーでもいいやつ相手にカッコつけるわけじゃないけど。
「私の目に見えてるのは山野くんと、上級生の中のAランク以上の方々のみ。生憎、貴方は眼中にないわ。一瞬で終わらせてあげる」
「そう、良い気になるなよ!」
「では、試合スタート!」
試合開始の合図である鐘が鳴る。あいつは私と同じ魔法使い。でも、唯一違うのは魔装を使ってるか使ってないかだけ。それを補うことができれば余裕で勝てる。
「行くわよ。スピード・スター!」
「おおっと!?いきなり、速度を上げる下級魔法を使って決ましたぁ!迅速に試合を終わらせるつもりと考えていいでしょうか?」
実況者が解説者に促す。
「ええ。そう考えていいかもね。韋駄天という魔装は誰でも使えるものですが、選手によって強さは段違いとなりますからね。使い手となると、かなりコントロールできるので。先に速攻で決めようとしといるのでしょう」
そんな細かく私のやりたいこと解説されたら、作戦の意味が……。
「なぁるほどねぇ。そーいう作戦だったのかぁ。魔装、今回は使わないよ。さ、決めさせていただこう。エアリアル・カッター」
エアリアル。そう、言い忘れていたが、風と光を司る天使だ。風のように素早い飛ぶ斬撃が、クリスタルを私の足の速さよりも襲う。防ぎようがない。だからこそ、私も対抗する。
「そう簡単に殺られるわけには……。アイス・プリズン!」
エアリアル・カッターの真下に魔法陣を出現させ、そっから氷の塊をその魔法へぶつけ、凍らせる。これでエアリアル・カッターの動きは封じた。
「魔法の使い方を応用してるのか。でも、僕だって負けられないねぇ!エアリアル・ナイト」
「なーんと!バトルフィールド全体が、暗闇に包まれたぁ!これでは、リーン選手は周りがみえなぁい!エアリアルの使い手の豊田選手が1枚上手だったか!?」
まずい、視界を奪われた。やつはどうせ視界が見えるのだろう……。だとしたら、私の負けを認めたくはないが、認めるしか……。いや、待って。自分のクリスタルは自分の魔法では壊れない。なら……。
「ふぅ……。これでどう!?クリスタル・バースト・プリズン!」
バトルフィールド全体の地面に魔法陣を出現させる。そして、そこから色々な形をした氷の塊が出現して、地面を覆った。勿論、その場にいる豊田は、なにかしない限り凍るだけ。
「どうせ、空中に飛んで避けてるはずよね……。クリスタル・マシンガン!」
空中に数えきれないぐらいの小さい魔法陣を出現させる。そこから大量の氷のつぶてが空を右往左往している。いずれ、必ず奴に当たるだろう。
「このまま、クリスタルを狙えば。クリスタル・ショット!」
ひとつの氷のつぶてが、やつのクリスタルに命中する。そこで、試合終了の鐘が響いた。
「おや!?バトルフィールドが暗闇に包まれたせいで、なにも見えませんでしたが、勝者!リーン選手ー!暗闇が徐々に溶けていきます。一体、バトルフィールドはどうなったのでしょうか……」
よかった。氷のつぶてのおかげであいつは倒れている。私の勝ち、なのね……。
「なんと!まるで南極のような氷の塊と、その上に散らばっている氷のつぶて!これは、リーン選手の魔法でしょうか……。暗闇の中、至る所に魔法陣を張ることで、視界を奪われたというバッドステータスをなかったことにする……。素晴らしい、作戦ですね!」
「はい、これは解説者である私もド肝を抜かれましたね」
私はというと、余りにも寒すぎたため、魔法を解除して、今のを全部なかったかのようにした。
すると、やつは少しずつ力を振り絞って立ち上がった。
「よもや、私の作戦を見破り、あまつさえ、視界を奪ったのに無差別な魔法の使い方で私に勝つとはね……。見事な勝利だ、リーン」
「最初から思ってたんだけど、馴れ馴れしくリーンって呼び捨てにしないで。あなたとじゃれあう気はないから」
そして、私は会場を後にする。
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