最終話
春の風は、本当に柔らかで気持ちがいい。
「いいお花見日和だね」
「うん。でも、初めて。お花見するなんて」
「あ、そうなんだ。ひなしたことなかったの?」
「うーん、なんかきっかけがなったっていうか……。してみたかったんだけど、一人だと変だし」
ひなは澄乃と一緒に、春の空の下に居た。
澄乃がみんなとお花見をしたいっていうから、それで今日は一緒に待ち合わせの公園に向かってる。
「変じゃないよ。あたしは毎年、一人でベンチに座ってお花見してたよ。好きな本読んだり、お茶しながら桜見るのっていいと思うけど」
「想像すると、何か似合っちゃうのが悔しい。でも、今年からはしないよね?」
「うん、隣の席はいつも埋まってそうだし」
「もちろんだよ。そこ、ひなの指定席だからね」
ひなの心は本当に、今の空のように柔らかい。
あの郡司先輩は澄乃にしていたことが全部バレて、学校を強制退学になった。
そしてしばらくして家からも追い出されて街からも出ていったから、もうひなと澄乃の目に入ることはない。
させられてたとはいえ澄乃のした事は当然問題になったみたいだけど、澄乃が全部取っておいた先輩とのメールが証拠となってそこまでのことにはならなかったらしい。
さらに澄乃は、今までしてきた数人に連絡を取って先輩とした行為について学校に情報を流してほしいって依頼をしたって言っていた。
かなりの人が事情を知って応じてくれて、その中には結構な割合で弁護士とか社長とかともかくいろいろな方面の偉いさんが居たとか。
澄乃は本当にあたしの願いをかなえるために、こんなにも手を尽くしてくれたことが嬉しい。
先輩の今後のことは、ひなも澄乃も興味ないから別にこの後どこでどうなったって関係ないけどね。
「先月のひなまつり、楽しかったね」
「あれは澄乃が、無理やり……」
「でも、一番楽しんでるの、ひなだったんじゃない?」
「うん、楽しかった!」
ひな祭りの日、ひなはなぜか盛大にお祝いされた。
それは澄乃が中心になってみんなが、ひな祭りだからひなのお祭りって日にして思いっきり楽しませようって会だった。
大好きなパフェをおごってもらったり、大好きなアクセサリー屋さんに連れてってもらったり、最後はカラオケで大騒ぎした。
最初はなんか恥ずかしかったけど、最後の方はひなが一番はしゃいじゃった。
だけど、みんな笑顔だった。
だって、みんながひなのためだけに作ってくれた祭りなんだからひなもみんなも楽しくないはずがない。
それに、ひな祭りって名前が本当にひなのためのお祭りみたいに思えたから問題なんてあるはずもなかった。
「空、綺麗だね」
「澄乃みたいに綺麗だよ」
「うーん、春霞だからちょっと違うって言いたいけど、ありがとう。ひなにきれいって言ってもらえるの、あたし、嬉しい」
こんな会話も、今は当たり前になった。
子供ってことを澄乃が遠慮なくさせてくれる時間のおかげで、まず無理をしなくなった。
我慢も変にしないし、好きな物を好きって言ってる。
といっても、全部澄乃の言うとおりにしてるわけじゃない。
澄乃はそんなことをさせないで、ちゃーんとあたしに選択肢をくれる。
例えば、澄乃みたいな服を一度着せてくれたんだけど、やっぱり違和感というか何か変だったので一度きり。
似合わなくてごめんねって謝るひなに、澄乃は笑顔で首を振って頭を撫でてくれた。
「ひながひならしく大人になるのがあたしの幸せ。だから、あたしの操り人形じゃ駄目だよ? でも、本当に分からなかったときあたしが言うようにすればいいの、ひなはちゃんとわかるもんね」
って言ってくれてるから、ちゃーんと前のようにひなはひな。
ともかく澄乃は色々なことに挑戦させてくれて、あたしっていう人間を作ってくれてる。
だから、心の積み木の積みなおしは、本当にうまく行ってる。
澄乃がひな事をしっかり考えて確認しながら心の積み木を積んでくれているから、あたしは大人に間違いなくなれるって思う。
あたしは澄乃の言うとおりにしておけば、本当に間違いがないって思ってるし。
さすがに前みたいな言葉遣いはもう十分だけど、ひなは澄乃の前では子供でいることを続けてる。
ただの何でもない子供でいい時間は、ひなには十分な幸せの時間だし絶対一生必要な時間なんだからね。
いつか、澄乃がひなの心の積み木を積み終える日が来るかもしれない。
だけど、それはお別れじゃない。
だって、ひなに澄乃は約束してくれてるもんね。
『白雪澄乃はあなた間森ひなの一番の特別でいる。何があっても、どんなに変わっても一番の特別でいる。そう、誓います』
って。
だからあたしが必要って思う限り、永遠に一番側に居てくれる。
「おーい、二人とも!もう準備できてる!」
「おのろけデートするのは構わないけど、あたしたちもいるってこと忘れないで欲しいなー?」
「あ、ごめんごめん!って、時間まで20分も早いんだけどー?」
公園の入り口で、約束してくれたみんなが手を振っていた。
ひなたちが一番だって思ってたし、待ってる間、澄乃といろいろしようって思ってたんだけどそれは無理みたい。
ちらっと隣を見ると、ひなをこんなにも幸せにしてくれた一番の特別な人は嬉しそうに笑っていた。
「みんなも楽しみなんだよ。ほら、行くよ?ひな」
「うん!」
きゅっと握られた手に、あのペアリングが振れた。
澄乃とひなは、もう運命で永遠につながってる。
そして、あたしにこんなにもあたしらしく生きられる『シアワセなセカイ』を与えてくれた。
だから、澄乃――これからも永遠に一緒に居てね。
だって、澄乃はひなのための『永遠のシアワセのセカイ』ずっとずっと築いてくれるもんね
幼馴染ざまぁから始まる闇の百合~あたしと彼女が「シアワセなセカイ」を築くまで~ 黒澤ちかう @chikau_kurosawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます