6・斉藤純夏

 ああ、疲れた。でもやっと、落ち着けた。

 母さんに話を聞けて、父さんが鴻島の血筋だって直接教えてもらったし。っていうか、爺ちゃんが幽霊になってきたんで、全部知ってたんだけどさ。母さんが知らないことまで。

 警察からも解放されて、やっと自分の家でくつろげた。警察の人たちは平謝りに謝ってくれたけど、それで全部なかったことにされたら腹立つわよね。

 でも、本当のことを知っているのは大竹刑事だけ。

 大竹さん、すんごく複雑な顔をしていた。事件解決は大竹さんのお手柄になったけど、警察の中で買収されてた人がぞろぞろ出てきたみたい。結構恨まれたりするんじゃない? しかも、結局は幽霊が事件を解決しただなんて言える訳ないし。信じてくれないだけならまだしも、ヘタすればクビか病院行きになっちゃうもんね。

 そんな複雑な気分、わたしは生まれてからずっと味わってきた。仲間が増えて、ざまあみろって感じかな。

 母さんも疲れきって、寝込んでる。わたしは自分のベッドに座って、幽霊に囲まれていた。

 猫ちゃんをなでて、ぼーっとしてた。

 いったいこの事件、なんだったんだろうね……。いきなり爆弾低気圧みたいな騒ぎに巻き込まれたって、なんか意味があるんだろうか?

 って考えても、答えなんかあるはずないよね。

 人生なんて、そんなもの。

 ちょっと居直って、大人ぶりたくもなります。

 幽霊に囲まれてほっこりしてるなんて、なんか変な気分。でも、まあ、これでみんな終わった。幽霊たちもそれぞれ吹っ切れて、成仏してくれるんでしょう……とか思っていたんだけど、甘かったー!

 坊やが言った。

「面白かったね……またこんな事件が起きないかな……」

 不謹慎なことを言ってんじゃないわよ! 何人も人が死んでるのよ……って、この子は死んだ人たちに殺されたような一面もあるんだよね。そう言う権利はあるのかもしれない。

 おやじもつぶやく。

「確かに……俺も、充実していたな」

 このおやじも被害者。

 鴻島の一族って、つくづく人に迷惑かけてきたんだよね。恨まれても仕方ないし、死んだことを喜ばれても文句は言えなさそう。猫ちゃんも、とっても満足してるみたいだし。

 と、お爺ちゃんがやってきた。見たことがない、ケバいお姉ちゃんを連れている。ホットパンツにタンクトップ、ニューヨークヤンキースのキャップ――K―POPの劣化版? まだ寒いのに。ご商売のお姉さんか私服のキャバ嬢ですか?

……つか、また幽霊増やす気かよ⁉

「うわ、それ、誰⁉」

 お姉ちゃんが笑った。

「手術大成功! 生まれ変わったでしょう⁉」

 うわ、おばさんだ……。

 確かに、大成功……って、元が全然残ってないじゃん……。

 坊やもおやじもあんぐりと口を開いたままだった。

 お爺ちゃんが言った。

「またみんなが揃ったな」

 私はお爺ちゃんにすがった。

「ねえ、これでみんな成仏してくれるんでしょう⁉ わたし、元の生活に戻れるんでしょう⁉」

 お爺ちゃん、からからと笑った。

「若いのに人生を後ろ向きに考えるではない。まず、みんなの意見を聞こうじゃないか。直恵君、君は成仏したいか?」

「バカな! 何のために美人になったよ! もうちょっとこの世界にいさせてよ!」

 うっそぉ! なに、その勝手な言い分!

「治君はどうじゃ?」

「エキサイティングだった! もっと難事件を解決したい!」

 お前、ホントにコナンになった気か⁉

「健司君は?」

「できれば、今しばらく家族を見守っていたい。こんな俺でも少しは役に立つことが分かったしな」

 あれ? あんたもこの世に未練が湧いたの?

 ヒザの上で猫が鳴く。

「にゃぁ」

 お爺ちゃんが通訳した。

「その猫も、しばらく嫁とラブラブしたいそうじゃ。あ、嫁はこれから探してくるがな。わしも何10年か若返った気分じゃ。長い間病院で寝たきりだったからな。わしにもやりたいことができた。これで気持ちが固まった。もう一度、会社を興すぞ」

 わたしは首を傾げた。

 なに言ってんのよ、あんたたち……。

 わたしの気持ちを聞くつもりはないの⁉

「幽霊のくせに、会社って、いったい何を……?」

 お爺ちゃん、あっけらかんと言い放った。

「むろん、調査会社じゃ。わしが顧問で、社長はお前、純夏がやるんじゃ」

「なんでわたしが⁉」

「幽霊と話ができるのはお前だけだからな。社員が全員幽霊なんじゃから、社長は他の者にはできまい?」

 うわぁ、聞いてないしぃ!


                          ――了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊会社《ゴースト・カンパニー》 岡 辰郎 @cathands

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画